【2010年 第6回 “貸し剥がし”にあわないために 】 資産運用に必要ないまどきの経済知識
有田 宏 ⇒プロフィール
1980年代バブルの頃の銀行員と経営者の話です。
銀行員「この機会に当行がお貸ししますので、ローンを組んでみたらみたらどうでしょうか。」
経営者「とはいっても当面必要は無いし、そもそもお金を借りてどうするんだい?」
銀行員「皆さん、お金を借りてますよ。」
経営者「………。」
景気が良くお金が余っているときにどんどん貸して、景気が悪くなり、いざお金が必要になると貸したお金を取り上げる、いわゆる貸し剥がしというやつです。
今の不景気は、“中小企業金融円滑法案”という法律があり銀行もおいそれと貸し剥がしや貸し渋りを行えなくなりました。
それどころか、金融庁への報告のノルマ達成のため、必要のない会社まで“金利を下げますのでなんとか返済を遅らしていただけませんか!”と銀行からお願いするケースも考えられそうです。
しかし貸し渋りや貸し剥がしは、いずれ復活するかもしれません。
銀行の甘い顔に安穏として、事業改革を怠っている会社は貸し剥がしの第1のターゲットとなるでしょう。
低い長期金利に安穏としている日本財政も似ているようですが。
それでは貸し剥がしにあわないためには?
次の2点を特に守ってください。
長く付き合える銀行を選ぶ
(1)長く付き合える銀行を選ぶ
目先の金利が低くても、状況が変わると潮を引くように一斉にお金を回収するような銀行では困ります。
政府系金融機関も政府の政策により融資制度が大きく変わる可能性があります。
将来にわたり長く付き合える民間銀行をメインバンクとして用意しておくべきです。
資金ばかりではなく経営全般にも親身に対応してくれれば、事業の拡大にも大きなプラスとなります。
その意味では銀行ばかりではなく信金や信組など地域に根をおろしている金融機関もメインバンクとしては有力でしょう。
経営者と銀行の信頼関係
(2)経営者と銀行の信頼関係
中小企業の財務諸表に上場企業並みの信頼性を望むことは困難です。
銀行も十分にそれを承知しています。
もちろん大きな粉飾や税法と会計基準の明白な違反は論外としても、解釈上の少々の問題は気にする必要はないでしょう。
現状は赤字であっても、将来の黒字転換に説得力があるのであれば大きな問題にはなりません。
問題はそれらをことさら隠そうとする姿勢です。
銀行がどこまで調査するかによりますが、隠せばかならずどこかに矛盾が生じます。
露見したときには経営者に対する信頼が一挙に崩れ去ります。
そうなれば環境が変わらずとも即、貸し剥がしとなります。
実例として、契約書の偽装が露見し、決定していた融資が直前に取り止めになったケースがあります。
当然その会社は当該銀行より全ての取引を打ち切られました。
その会社がその後どうなるかは銀行の知ったことではありません。
融資が実行済みであっても、このような偽装が見つかれば、たとえ返済期日前でも全額繰上償還を請求することができます。
そもそも偽装するような会社に返済できる資金が残っていることは少ないでしょうが、残っているのであれば間違いなく全額償還を迫ってくるでしょう。
貸し渋り、貸し剥がしにあわないためには。
長く付き合える銀行を選び、厳しい事情もきちんと説明する。経営者はその厳しさに熱意をもって説得力のある対処法を説明する。
そこから銀行と経営者の信頼関係も生まれる。
銀行も長く付き合うことが大きなプラスとなると考えれば貸し剥がしなどということはおきません。
間違っても、当座の数字を繕ったり、重要な事実を隠したりしてはなりません。
仮に貸し剥がしにあわなかったとしても、いずれは破綻は確実です。
むしろ早い時に貸し剥がしてくれた方が会社や株主、社員の被害は少なくなります。
商品ではありません。
この記事へのコメントはありません。