老老介護は楽して満足《いい、加減》〜母から学んだ衣・食・住戦略〜【2022年3月】

65歳以上の高齢者が高齢者を介護する「老老介護」では、本人希望をできるだけ叶えること、家族の負担をできるだけ減らすことが大切です。そこで私の母の事例を基に、衣・食・住の留意点をご紹介します。ポイントは「いいかげん」(いい、加減)がちょうどいい、ということです。

早川 悟プロフィール

母の現状と介護生活に入るまで

現在、私の母は91歳になります。
介護度は要介護3、認知症が多少あります。
デイサービスには週3日通っています。
家族は母のいない間に、買い物や自分の用事を済ませます。

また冬場(12月~翌年3月)にはデイサービス利用施設に入所しています。
我々が暮らす山陰地方の冬は寒さが厳しく、夜中には自宅内でも冷え込むため、老人には寒暖差により体調維持が難しいと考えたからです。

やはり施設なら一日中空調が効いていつも一定温度に保たれており安心です。
コロナ禍前には、家族が泊りがけで出かけるときにショートステイも利用していました。
家族の息抜きも必要です。

2005年に父を亡くして以後、母は父と暮らしていた住居で一人暮らしを謳歌していました。
社交的な性格で、多くの友人・知人に囲まれていました。親しい仲間らと食事会や芸術鑑賞に出かけていました。
誘い合って国内旅行にもよく行っていました。
また、私たち夫婦やその子たち一家を食事会や海外・国内旅行にも誘ってくれました。

このように行動的で明るい人でしたから、母が倒れることなど想像もしていませんでした。

12年前、母は自宅で就寝前に脳出血で倒れました。
翌朝、私の娘が立ち寄った際に返事がなく異変に気付きました。
ベッドに寝たまま、しゃべれず身動きできない状態でした。
近くに勤務する娘の立ち寄る予定日が、もしその日でなかったら。
発見が遅れ、もっと深刻な事態になっていたでしょう。

《教訓1》

介護は突然やって来ます。そして、長く続きます。これからも、ずっと……。だから介護する側にも息抜き(生き抜き)が必要です。

《教訓2》

親子の同居・別居はどちらが正解か? ご家庭の事情で選択の余地がない方もおいででしょう。

これから私見を述べます。
もし私が父の亡くなった頃に戻れるのなら、当時と同じく同居か別居を選択できたのなら、お互いに付かず離れずに親子の自由がある別居を選びます。
同居していれば、その日のうちに発見できたでしょうし、症状も軽くて済んだかもしれません。それでも、気ままな別居の魅力が勝ります。

《衣》は極力自分で「いい、加減」

衣類をめぐるサポート体制について、参考にして欲しい考え方を述べます。
やはり季節の変わり目における入れ替え、施設利用時に持込むべきものが気になるところですが、なるべく「自分で」という視点を大事にするのが「いい、加減」につながります。

1)自分で着替えて障害を克服

母は右半身麻痺の障害がありますが、左手指と口を使って器用に一人で着替えます。ボタンの止外しも自分でできます。
上着もズボンもきちんと畳みタンスに仕舞えます。家族が手伝うのはハンガー掛けくらいです。
手指を動かすことで、運動機能を少しでも維持できるよう努めています。
また着替えのとき、もし母がふらついて倒れても「柔らかいベッドの上なら安全」と割り切って、家族は見守りをしないようにしています。

2)本人が衣類を選ぶ

季節の変わり目には衣類の入れ替えが必要です。
しかし、年を取ると温度の変化を感じにくくなり、温かくなった春なのに分厚い冬着をそのまま着ていることがあります。
例えば5月・6月頃は春物から夏物への変更時期ですが、母が季節に合った衣類を要望して来るまでじっと我慢して待ちます。
また夏に向かっているとはいえ、少し肌寒い日もあるので春着も残すよう家族から提案もします。

3)デイサービス利用時、持ち込む衣類は自分で用意する

母が施設に持ち込む衣類はすべて自分で選びます。
そして選んだ衣類に過不足がないか、家族が確認します。
お風呂に入る日なのに着替えがない場合や、空調が効いた施設内での温度調整のためカーディガンがあった方がよい場合など、気づいたことを本人に伝えます。
そして本人に調整の要・不要の判断を任せます。決して強制はしません。

《食》については「いいかげん」にしない

食については「いい、加減」が難しい点、決して「いいかげん」にしてはならない点があります。

ここを押さえないと誤嚥性肺炎の危険が増し、最悪、死に至ります。

私の父は、入所していた施設での朝食時に喉を詰まらせ誤嚥性肺炎が原因で亡くなりました。

食事中に「むせぶ」ことが多く、本人、家族とも不安

母の食事では、飲み込み易いように「とろみ」を付け、よく噛んで食べるよう指導しています。それでも、よく「むせぶ」のです。施設では、そんなに「むせぶ」ことはないようです。なぜ家では「むせぶ」のか疑問でした。母の様子を観察していた家内が、やっと「むせぶ」原因に気づきました。それは、「観てはいないけれど、テレビが気になる?」のが原因でした。テレビのない場所で食事をしたら、「むせぶ」ことが格段に減少しました。

住についての「いい、加減」

ここでは車椅子の選び方を中心にご紹介します。自力でベッドから乗り移ることができていた時と、できなくなってからでは選び方が異なってきます。その考え方を参考にしてください。

1)一人で乗り移りが出来ていた頃

家族は業者と相談し、幅の狭い軽量タイプを用意しました。
自宅玄関からベッドまでの狭い廊下が通り易いようにと考えたのです。
しかし、本人から乗り移り時、安定感があり多少身動きできる頑丈な幅の広いタイプがいいと希望がありました。
この頃の母はベッドから車椅子へ乗り移るとき、右半身麻痺のため膝を曲げることができず、どうしても腰をドスンと落とす危なっかしい座り方でした。

そこで本人が希望する頑丈な幅の広い車椅子であれば「転落することはない」と考え、業者にお願いして急遽、頑丈な幅の広いタイプに変更しました。
ただし安心な器具を選んだからといって油断は禁物。
万一に備え、家族の見守りは継続しました。

2)乗り移りに手助けが必要になってから

本人から車椅子に体がすっぽりと収まり、体を支えられる幅の狭い軽量タイプがいいと希望がありました。
家族も業者もそれがよかろうと納得し、現在に至っています。

まとめ

老老介護を担うのは高齢の家族です。
高齢ゆえに、体力・気力とも年々少しずつ衰えていくのは仕方ありません。
そこで親には、「できることは自分で」してもらいます。
それが身体的機能を維持しボケ防止になります。
家族は多少危なっかしくても、やれることは親に任せて「楽」をするのです。
一見、「手ぬき」だと思われるかもしれません。

しかし、この「手抜き」が「息抜き(生き抜き)」に繋がるのです。

介護生活成功の秘訣は、「楽して満足! いいかげん(いい、加減)」を実践することです。
皆さんも「いいかげん(いい、加減)」の介護を試してみませんか。

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