社長が仕事中にケガをしたら?【2012年 第 3 回】

【2012年 第 3 回 社長が仕事中にケガをしたら?】– 経営者のための社会保険・労務管理

菅野 美和子(スガノ ミワコ) ⇒プロフィール

サラリーマンとは、企業に雇われる身。雇われるからこそ制約もありますが、様々な法律で守られているのも事実です。しかし、社長(経営者)は違います。誰かが守ってくれるわけではありません。自分で自分を守ることを考えておかねばなりません。今回は「社長の仕事中の災害」がテーマです。

法人を立ち上げる

法人を立ち上げると、社長ひとりの会社であっても、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しなければなりません。健康保険に加入することによって、医療機関では3割負担で治療を受けることができますし、その他、さまざまな給付金があります。

傷病手当金もそのひとつ。

病気やケガが原因で仕事ができず(労務不能となって)、賃金(報酬)が支払われないとき、標準報酬日額の3分の2が支給されます。だいたい給料の3分の2が保障されると考えてください。これは社長であっても同じです。

ただし、役員報酬は、仕事を休んでいる場合でも支払われることがあります。報酬の支払いがあれば受け取れません。

条件を満たすと、私傷病の場合は傷病手当金を受けることができますが、業務上(通勤途中も含めて)となると話は別です。

健康保険は、業務災害や通勤災害以外の病気やケガを保障するもので、業務上や通勤途中の災害は給付の対象外です。

仕事中にケガをした、通勤途中にケガをしたという場合は、一般労働者は労災保険から給付を受けられます。治療費も全額支給されますし、休業補償は、特別支給金を含めて給料の8割相当額が支給されます

ここで社長が仕事中にけがをし、休業したという場合を考えてみましょう

労働者ではない社長は労災保険の対象外です。では健康保険は使えるでしょうか。

健康保険は業務外の病気やケガが対象ですので、業務上のケガでは給付を受けられません。

つまり、仕事でケガをした社長は、どこからも治療に関する給付を受けられないことになります。

これは困ったことですが、健康保険と労災保険の制度に違いにおける「落とし穴」のようなものです。労災保険に社長は加入できず、健康保険は業務上のケガは対象外なので、社長の業務中のケガに対して医療に関する保険は何も使えないということになってしまうのです。

ただし、健康保険の被保険者が5人未満の小規模事業所の社長の場合、治療だけは健康保険で受けられますが、休業保障(傷病手当金)はありません。

小規模事業所に該当しなければ、治療費も自己負担、休業保障もないといったことになります。

社長は仕事中のケガといったリスクにも備えておかねばなりません。

労災保険には特別加入といって、一定の中小事業主が加入できる制度があります。特別加入していれば、労災保険からの給付を受けられます。

しかし、労災保険に特別加入してもすべての病気やケガがカバーされているわけではありません。

一般労働者と同様の仕事をしているときに発生した災害は労災保険対象となりますが、社長業務中の災害は対象外です。

また、特別加入は、労働保険事務を事務組合に委託しなければならず、保険料の他に委託費用も発生します。

労働保険の手続きは事務組合を通すことになるので、便利な面もありますが、それが不便になる場合もあります。

特別加入するかどうかは別として、社長は傷害保険等でリスクをカバーしておくべきでしょう。経営者の自己責任です。

個人事業主は国民健康保険に加入することになりますが、国民健康保険は業務中の災害について給付をおこないます。つまり、仕事中にケガをしても、個人事業主は、国民健康保険で治療を受けられます。

ただ、国民健康保険にはもともと休業保障という仕組みがない(国民健康保険組合では実施している組合もある)ので、はやり、病気やケガへの備えは別にしておいたほうがよさそうです。

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