労務管理のイロハ【2012年 第5回】

【2012年 第5回 労務管理のイロハ】- 経営者のための社会保険・労務管理

菅野 美和子(スガノ ミワコ) ⇒プロフィール

経営者の悩みにはいろいろありますが、社員に関する様々な問題、つまり労務管理での悩みはつきものです。社員が期待どおりに仕事をしない、社員間にトラブルが多い、すぐに辞める・続かないなどの悩みは、経営者の方に共通しているかと思います。対応策も簡単ではありません。ひとつ対応を間違えば逆に訴えられるかもしれません。今回からは労務管理編。まずは、経営者としての「労務管理のイロハ」についてお話しましょう。

現代はインターネットでさまざまな情報が得られる時代です。

「残業代の支払いがない」「有給休暇を取らせてくれない」など、ネットで検索すれば、法律がどうなっているか、おおよそのことはわかります。

残業代は払わないといけませんし、通常通り6ヵ月勤務すれば年次有給休暇が10日発生します。「パートだから年次有給休暇はありません」などとは言ってはいけないのです。また、たとえ社員が悪くても、いきなり「明日から来なくてよい」というのも言ってはいけません。

これらは一例です。言ってはいけないことがたくさんあります。

「ちょっと待って! そんなに法律を守っていたら、中小企業はやっていけない」と言われる経営者さんも多いです。法律の方がおかしいと言われる方もあります。

確かに、不合理だと思える法律もありますし、法律どおりにしていたら会社が赤字に転落するという事情もわからないではありません。

しかしどんな法律でも、法律であることには間違いありません。赤信号で横断してはいけないと決まっているのに、赤信号で横断したら、法律違反を問われます。

「すみません、次から気をつけます」謝って済む場合はよいのですが、赤信号で渡って重大な事故を起こしてしまえば、謝って済むことではありません。

これと同じように考えるとよいかと思います。

労務管理の基本は、まず、経営者がしっかり労働法や社会保険法について知っておくこと。

「なあんだ、そんなことか」と思われる方もあるかもしれませんが、私の経験からみると、「そんなこと」を知らないがために、多くの問題が起こっています。

そして、次にはその法律を守ること。

また、「そんなこと? もっと別の策を教えてほしい」と言われるかもしれませんね。「中小企業には無理でしょ。残業代全部払っていたら倒産するよ」というようなことでしょう。

ここからが考えどころです。どう会社を守るのか、リスクを避けるのか、方法はあります。

法律を知って、法令違反とならないために、どんな対策を講じるのか、すべてここから始まります。

ある企業でこんなことがありました。

たくさんのパートタイマーが働いています。

パートタイマーに年次有給休暇があるかないかと問われれば、当然「ある」です。ただし、多くのパートタイマーがどんどん有給休暇を所得すると、企業の負担も大きく、実際に仕事もまわらない、だから「ない」とは言わないけれど、積極的に「ある」とも言わず、請求があったら拒否しないとこんなふうに対応をしてきました。

しかし、「パートに有給休暇はありますか」との問い合わせがあり、企業として対応しなければならなくなったのです。

パートの有給休暇をめぐって半年くらい社内で話し合いました。

「みんながどんどん休暇を申請したらどうなるのだ。経営が悪くなる」と反対もありました。しかし、パートタイマー全員に現在の有給休暇の付与日数を知らせることにしました。

それから1年。パートタイマーの有給申請はありますが、誰もがどんどん有給休暇を申請するかというと、そうではありませんでした。

何をしに会社へきているのか、事業が伸びていかなければ労働条件もよくならない、会社を伸ばしていくために、みんなで力を合わせていこうとていねいに話をしていったからだと思います。

労働者の権利と義務は一体です。

権利を経営者が理解すると同時に、労働者にどう働くべきか(義務)を考えてもらうのも大切です。権利だけを主張した結果、会社が倒産してしまったら、それは労働者が望む結果ではありません。

経営者が法律を知って、法律を守るという立場にたって労務管理をする、これはあたりまえのことですが、この基本が間違っていて、大きなトラブルになることがあります。

問題社員への対応も苦慮するところです。

仕事をしない、仕事がさばけず残業が多い、他の社員と合わない、顧客とトラブルを起こす、仕事中の私用メールやインターネットの私的使用など、さまざまな問題が起こります。

こういうときにどう対応すればよいのか、それは次のコラムでお話します。

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