【2012年 第6回 嫁としての相続】女性のための幸せ相続を考える
マイアドバイザー®事務局 株式会社優益FPオフィス
相続においては、嫁は「他人」でしかありません。どんなに介護に尽くしても、家業に貢献しても、相続人でない嫁の立場は弱いもの。だからこそ、先のことまで考えた備えが必要な場合があります。
■ お世話したのは、私なのに・・
夫の親の介護を担い、面倒を見ているというお嫁さんは多くいらっしゃると思います。
夫が仕事で忙しいとか、夫の兄弟姉妹が皆遠方に住んでいるなどの事情から、日々の介護をしているのは実質的には長男や次男のお嫁さんひとりという状況も珍しくないでしょう。
けれども相続においては、嫁として献身的に介護に尽くしてきたことに見合う何らかの代償が法的に保証されているわけではありません。どんなに尽くしても、嫁は相続人ではないために、夫の親の財産を引き継ぐ権利がありません。介護だけでなく、夫の実家の家業を手助けしてきたような場合も同様です。
相続人であれば、法律で認められている寄与分という制度によって、貢献度合いに応じて本来の相続分に上乗せする形で相続人間の実質的な平等をはかる方法がありますが、相続人でない嫁には寄与分の適用もありません。
「妻の手助けによって夫に寄与があった」として、夫に寄与分が認められれば間接的に嫁に財産が渡る可能性はありますが、寄与分の決定には相続人全員の合意が必要であり、話し合いが整わなければ夫が家庭裁判所に調停または審判の請求を申し立てることになります。
「代償のために介護してきたわけじゃないから、お金なんていらない」と考えるお嫁さんもいらっしゃると思いますが、お嫁さん自身の先々のことを考えたとき、状況によってはすぐにでも何らかの対策をしておいたほうがよい人がいます。
■ 夫が同居の親より先に亡くなると
夫の親名義の家に同居しているお嫁さんは、何も準備がないと将来困ったことになる可能性があります。特に子どものいないご夫婦は要注意です。
夫が健在なうちはよいのですが、万が一、夫が親よりも先に亡くなってしまったと想定してみましょう。夫亡き後は夫の親とお嫁さんとの生活となります。問題が起きるのは、夫の親がふたりとも亡くなったときです。
夫の親名義の家は相続人のものとなりますので、いくら同居しても介護しても、相続人でない嫁のものにはなりません。子どもがいれば、子どもが夫の代わり(代襲相続人)として家を引き継ぐ権利を持ちますが、子どもがいなければそれも無理。亡き夫に兄弟姉妹がいれば、嫁のこれまでの献身とは関係なく、相続財産は相続人である夫の兄弟姉妹のものになります。
相続人が、「相続税のこともあるし、家を売ってしまいたい。」とでも言い出せば、何の権利も無い嫁の立場ではそれに従うほかなく、泣く泣く家を出て行かざるをえないことになってしまいます。親の介護にはノータッチだった夫の兄弟姉妹が相続人の権利として家をもらい、さんざん介護に尽くした嫁が家を追い出されることになっては・・嫁にとっては悲劇です。
■ 夫の配慮で、先々まで備えておく
相続が起きてからもめごとが起きないように、また、嫁に悲劇が起きないようにするためには、
夫と夫の親が元気なうちに、嫁として夫の家に貢献している事実を認めてもらい、嫁が後に残された場合の事情まで理解してもらうことが必要です。
そして、嫁に遺産を分けること(「遺贈」といいます)を記載した遺言書を作ってもらう、生前贈与するなどの方法により、嫁の貢献が報われるよう、そして夫の親と夫が亡くなった後のことまで考慮して、嫁が困らないよう準備しておきます。
特に住居については権利関係を確認し、共有名義を整理したり、使用貸借関係があれば書面で明確化しておくなど、将来のもめごとを避けるために適切な対策をしておくことが大切です。
夫の親から嫁に直接財産を渡す方法をとらなくても、実の子である夫に贈与・相続させることにしておけば、いずれ相続人として嫁が受け取ることができます。ただし、いずれの方法をとる場合でも、他の相続人の遺留分を侵害しない範囲で贈与や遺贈を行う配慮は必要です。
生前に親の遺産分けについて話すことに抵抗を感じる人も多いと思いますが、先送りにしていてはいつ病気や事故に見舞われるかもわかりませんし、認知症による判断能力の低下で話し合いができなくなるなどのリスクも高まるばかりです。
いざ事が起きて、何の対策もとれなくなってしまってからでは手遅れです。相続人でない嫁から言い出すことは難しいでしょうから、夫のほうから、早いうちに親と話し合いの機会を持つようにし、先々のことを考えた備えをしておくと安心です。こうした夫の配慮こそ、嫁としての幸せ相続には欠かせないものだと言えるでしょう。
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