【2012年 第7回 知っておきたい労基法/賃金編】- 経営者のための社会保険・労務管理
菅野 美和子(スガノ ミワコ) ⇒プロフィール
労務管理は経営者の永遠の課題です。大切なことのひとつに、労働基準法(労基法)を知ることがあります。取り返しのつかないことにならないように、基本的なことは学んでおきたいものです。今回は、経営者の立場からみる労基法です。労基法は経営者にとっても労働者にとっても同じ法律ですが、どの立場から見るかによって、理解も異なってきます。
労働者にとって大切なものは「賃金」です。
働いた分を約束どおり、きちんと受け取れるかどうか、労働者にとっては大きな問題です。
毎月の給料は計算期間を決めて、一定の日に支払います。これはあたりまえと思っている方も多いですが、働く人が安定して生活していくために、労働基準法で定められています。
※賃金の支払い5原則(通貨払いの原則、直接払いの原則、全額払いの原則、毎月一回以上払いの原則、一定期日払いの原則)
全額払いの原則がありますが、給料から社会保険料や税金を引くことはOK。ところが、旅行積立金や食事代といったものを会社が勝手に給料から引くのはNG。
労使協定を結んで、これとこれは給料から引いてもいいと約束をしなければなりません。労使協定はありますか。
社員が会社からお金を借りることもありますね。たとえば資格取得のための研修費用を借りるとか、
個人的な事情でお金が必要になって借りるとか。
返済についても約束するはずですが、退職することになり、計画どおりにいかないこともあります。
そんなときは最後の給料から全額引いて良いものでしょうか。
借りたお金を返すのはあたりまえなのですが、勝手に引くことはできません。労使協定があること、
借り入れした本人との合意があることが必要です。最初に、返済できない場合のルールを話し合って、誓約書を取っておくのがトラブル防止になります。
あいまいにしていると「全額払いの原則」に違反していると、訴えられることにもなりかねません。
給料に関して問題になりがちなのは残業代の支払い。残業代の未払いでトラブルになるケースも多いです。
なぜ未払いという問題が起きるのでしょうか。
ひとつは、実際に残業が発生しているのに残業を認めないケースです。また、あらかじめ残業は10時間までなどと決めて、それ以上は認めないというケースもあります。その他には、残業代は支払われているけれど、適切に割増がなされていないケースがあります。
残業を全部認めていると経営が成り立たないと経営者の方は思われていませんか。だらだらと残っている社員もいるし、会社にいる時間すべてが残業ではないという声も聞こえてきます。
そのとおりです。「会社にいる時間」イコール「労働時間」ではありません。
経営者としては、必要な残業は認めるが、だらだら残業などの不要な残業は認めないといったスタンスが必要です。
所定労働時間中にいかに効率よく仕事をするか、日頃からの指導が大切です。また、残業が必要な場合は、残業申告制を取るなどのルールを作った方が良いでしょう。
時間外については、原則25%の割増賃金が必要です。
労働時間は、原則として「1日8時間、週40時間」と労基法で定められていますが、1日8時間や週40時間を超えても時間外手当を支払わなくてもよい方法があります。変形労働時間制を取るなどの方法です。
また定額時間外手当などの導入で、時間外手当で給料が大きく変動しないようにすることもできます。
週休2日制をとっている会社が多いと思いますが、休日出勤も起こります。法律上は週に1日の法定休日が必要です。法定休日に出勤させた場合は35%の割増賃金です。
土曜日と日曜日が休みで、土曜日に出勤した場合、土曜日の割増率はどうなるかということですが、週に一度の休みが確保されているのであれば、25%でよいことになります。
割増賃金についても正確に理解しておかないと、不払いが生じたり、逆に支払わなくてもよいものを支払っていたりします。
賞与や退職金などは会社独自の基準で問題ありません。労基法にも定めがありません。
賞与は必ず支給されるものではないことを規定に入れておきましょう。また、支給日に在籍していることなどの支給要件については明確にしておきます。
ただし、これまでのお話は、会社の就業規則によって異なってくることがあります。
今一度就業規則を確認しましょう。就業規則そのものが法律に合わない場合は改定が必要です。
何も問題が起きないときは就業規則を意識することがないかもしれませんが、いったん問題が起こったときに、内容をもっと検討しておくべきだったと後悔することは多いのです。
今回は賃金関係についてお話しましたが、次回は、休暇、退職などについてお話しします。
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