【2012年 第10回 リスク管理型就業規則のツボ】– 経営者のための社会保険・労務管理
菅野 美和子(スガノ ミワコ) ⇒プロフィール
会社を経営していると、「人」の問題が絶えることはありません。いったんトラブルが起こると、従業員や退職した元従業員が労働基準監督署に訴えることもありますし、ユニオンや弁護士が会社にやってくることもあります。いきなり裁判に訴えられるということもあります。そうなると「証拠」の世界です。就業規則、契約書、誓約書などをもっと整備しておけばよかったと初めて気がつくことになります。「リスク対応型」就業規則が必要です。
労働基準監督署へ就業規則の届出義務
従業員(パートも含めて)が常時10人以上いる事業所には、労働基準監督署へ就業規則の届出義務があります。これは従業員が10人未満なら作成しなくてもよいということではありません。10人未満の小規模事業所では、届出の義務がないということなのです。
届出義務にかかわらず、一人でも採用すれば就業規則が必要だと思っておいたほうがよいでしょう。
就業規則は「会社の憲法」とも言えるものです。どんな条件で働いてもらうのかという条件提示の意味があります。また、どんなことを守らなければならないのかと労働者の義務もあます。働くにあたっての約束事を明確にするものです。
あなたが経営する会社に就業規則はありますか
会社設立時に就業規則を作成される場合も多いですが、今やネットでモデル就業規則をダウンロードできる時代です。ダウンロードし、少し手直しすれば就業規則ができあがるでしょう。
許認可などの関係で役所に提出しなければならないからと、急いでで就業規則を作成するケースも見受けられます。なんでもいいから出せばいいという感じで。
しかし、経営者にとっての就業規則は「リスク対応型」になっていなければならないのです。
何事も順調に行くとは限りません。特に「人」に関することは、いったんこじれると深みにはまっていくことがあります。
社員が何の連絡もなく出社しなくなったとか、社内でパワハラ問題を起こしたとか、社内情報を他にもらしていたとか、あってほしくないことですが、どんな問題が起こるかわかりません。
そんな問題が起こったときに、就業規則にそって対処できるかということです。
就業規則はあるけれど、必要なことが記載されていないので、就業規則を根拠に対処できないということにならないようにしておきたいのです。
時々あるのが連絡もなしに出社しなくなる社員です。電話には出ませんし、自宅へ行っても不在、家族の連絡先もわからないとなり、解雇して良いかどうかというお問い合わせもあります。
しかし、このようなことに備えて、就業規則で「連絡が取れず無断欠勤が1ヵ月経過したときには自然退職とする」ということを定めておけば、解雇という手続きを取らずとも退職とすることが可能です。
社員が大きな問題を起こしたときも、どのような処分をするのか、きちんと定めていれば、それにしたがって、懲戒解雇ということもできます。
もちろん、解雇権の濫用とならないように慎重にことをすすめなければなりませんが、就業規則の一文が会社を救うこともあるのです。
就業規則以外に必要なこと
また、就業規則ばかりではありません。
契約書(あるいは労働条件通知書)は作成しなければなりませんが、それすらしていない事業所もあります。
文書で労働条件を通知していないというのは危険です。どのような条件で働くのか、個別の給与などをきちんと明示しておかないと、のちのちトラブルになることもあります。
たとえば、残業手当も含んで役職手当を5万円つけるというケースでは、残業代込みであることを口頭で伝えただけではいけないのです。そのときは「わかりました」となっても、何か問題が生じると、残業代不払で訴えられる可能性もあります。
誓約書関係も必要です。誓約書があるから万全とはいえないこともありますが、必要と思われることは誓約書を取っておきましょう。
また退職時には、退職時の誓約書を取っておくとよいでしょう。
身元保証書についてはそこまで求めていない企業もありますが、最低限、家族の連絡先などは把握しておく必要があります。
身元保証書の有効期限は、期間の定めのない場合は3年間、期間を定める場合でも最長で5年間です。自動更新はできません。更新する場合は改めて手続きをしてもらう必要があります。
10年前の身元保証書があるので、保証人に損害賠償を求められるかというと、期限切れとなっているので、求められません。
就業規則は関連法令を守って作成しなければなりませんが、企業の裁量で決定できることもあります。モデルのまま使用しても問題ない部分もありますが、すべてがモデルではリスクに対応できないと考えてください。
これから会社をはじめる場合、就業規則はあるけれど、しばらく見直ししていない場合、急いでモデルで作成したという場合、再度見直しをしてみましょう。
そのとき、さまざまな問題を想定して、その問題に対処できるものになっているかという視点で見直していくのがポイントです。
これは会社を守るために経営者がやるべきことですね。
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