【2012年 第10回 女系家族の相続】女性のための幸せ相続を考える
マイアドバイザー®事務局 株式会社優益FPオフィス
妻の親の相続権
夫はいわゆる「婿養子」。妻の親の相続権はある?ない?
相続における婿養子の立場を正しく把握して、女系家族の円満な相続に備えましょう。
「婿養子」の誤解
ミドリさんの夫コウジさんは、3人姉妹の長女であるミドリさんと結婚し、ミドリさんの父親の起こした小さな会社を継いでいます。
コウジさんはミドリさんの姓を名乗り、ミドリさんの父親名義の土地の上に二世帯住宅を建てて暮らしています。
ミドリさんのお父さんが高血圧で倒れてから、嫁いだ2人の妹たちが、「相続のことが心配」、「お父さんにそろそろ遺言書を書いておいてほしい」などと頻繁に訪ねてくるようになりました。
どうやら妹たちは、婿養子であるミドリさんの夫コウジさんに財産を沢山持っていかれるのではないかと心配しているようです。
ここで、まずはミドリさん家におけるコウジさんの婿養子としての法律上の立場を確認してみる必要があります。そもそも婿養子って何なのでしょうか?
もともと「婿養子」というのは、旧民法における家制度のもと、家督相続人となる男子がいない場合に婚姻と同時に夫が妻の親と養子縁組して夫を妻の家に入籍させることで家督相続権を入り婿に移すことができるという、家制度の存続のために定められた制度でした。
しかし家制度が廃止された現在の法律では、「婿養子」という制度も身分もありません。養子縁組した婿は単に「養子」と呼ばれます。現代では旧制度の名残や単なるイメージから、妻の姓を名乗り、妻の実家で同居しているだけの夫のことも婿養子と呼ばれることがありますが、妻の親と実際に養子縁組までしているケースは少数派のようです。
あの国民的アニメサザエさんの夫マスオさんも婿養子というイメージを持たれることが多いようですが、サザエさんの両親と養子縁組はしておらず、姓もフグ田を名乗っていいます。
マスオさんは妻の親と単に同居しているだけであって、法律上は磯野家の婿養子ではありません。したがって、波平さんが亡くなってもマスオさんは波平さんの相続権を持ちません。
ミドリさん家のコウジさんも養子縁組をしていなければ相続人とはならないので、その場合、ミドリさんの妹たちの心配は全くの取り越し苦労ということになります。
妻の姓を名乗っていても・・
ところでコウジさんはミドリさんの姓を名乗っていますが、その場合でもコウジさんは相続人にはならないのでしょうか?
夫が妻の姓を名乗っている場合、通常は次のいずれかの方法を選択したものと考えられます:
1.婚姻届を出す際に、妻の氏を名乗ることを選択した
2.妻になる人の親と養子縁組した後に婚姻届を出した
1の場合、コウジさんは妻の親の相続人とはなりません。妻が筆頭者になって戸籍が編成されたにすぎないので、妻の親とは義理の親子の関係のままだからです。女性が結婚して夫の姓を名乗り、夫の実家で同居しても相続人になれないのと同じですね。
2では、コウジさんはミドリさんの親と法律的に実の親子関係と同様の関係が生じています。
したがって、相続人としてミドリさんの親から財産を受けることができます。なお、ミドリさんの親と養子縁組をしたことによってコウジさんと実の両親との身分関係に変化が生じることはありませんので、コウジさんは実の親とミドリさんの親、両方の相続人となります。
このように、妻の姓を名乗っていても養子かそうでないかの違いによって相続人になる場合とならない場合があるということを知っておく必要があります。
養子縁組は慎重に
妻の家の名を絶やしたくない、家業を存続させたい、相続税対策などの理由から、夫と妻の親との間で養子縁組を検討するケースもあろうかと思いますが、その際には、養子縁組に伴い生じるリスクも考慮した上で慎重に判断することが求められます。
安易に養子縁組すると、たとえば夫婦が離婚に至ったような場合、離婚によって自動的に養子縁組の解消(離縁)がなされる訳ではなく、離縁には当事者である妻の親と夫双方の同意のもと、届出が必要となります。夫が離縁に同意しないままに妻の親が亡くなってしまい、別れた妻と養子である夫とで遺産分割協議を行い揉めてしまったというケースもあるので注意が必要です。
また、養子縁組により相続人が増え、結果として他の相続人の相続分が減ってしまうことが思わぬ争いの元になることがあります。養子縁組については事前に同意を得ておくなど、他の相続人へ配慮することも大切です。
ミドリさんの家庭のような女系家族では、「婿養子」である夫の相続における立場を正しく把握することが円満な相続を迎えるための第一歩となります。誤解や思い込みが無用なトラブルを生まないよう、夫、妻の親、姉妹たちともあらかじめよく話し合っておくと良いですね。
この記事へのコメントはありません。