【2012年 第12回 事業の拡大と雇用】-経営者のための社会保険・労務管理
菅野 美和子(スガノ ミワコ) ⇒プロフィール
事業を拡大していくときのポイントは「人」。特にひとり事業から出発した場合、次のステップは人の雇用です。経営者の悩みにはいろいろありますが、社員(人)に関する問題は永遠の課題と言えるでしょう。今回は、事業を拡大していくために、その要となる人の採用・雇用に関してお話をします。
ひとり事業主
最初から会社組織で社員を雇用しないと営業できない業種もありますが、まずは、ひとりで事業を開始し、その後、人を採用し拡大していくというケースもありますね。
ひとり事業主は営業から雑用まで、なんでも自分でしなければなりませんが、ひとりということは意外に気楽なことでもあります。
自分で考えて、自分で決める。社内会議はいっさい必要なし。大変なように思えますが、会議がないということは、仕事が進めやすいということでもあります。経験された方はよくおわかりになるでしょう。
しかし、ひとりでできることに限りがあります。ある程度、仕事を効率化しても、すべてを自分でこなさねばならないので、長時間働いても限界がきます。その位置で仕事をキープするのか、投資をして次のステップへ踏み出すのか、ある程度成功してきたひとり事業主が悩む通過点だと思います。
さらなる事業拡大を目指すとき、人を採用することになります。
誰しも、秀な人材に働いてほしいと思います。ところが、これが難しいのですね。
経営者の方から、「人を見る目に自信がなくなった」という声をよくお聞きします。採用した社員がトラブルを起こす、仕事ができないなど、見込み違いであれば、採用面接をした経営者は自分自身をせめてしまうのです。
そして、そんなことが続くと、もう自分は人を見る目がないと、落ち込んでしまいます。採用した社員ではなく、自分を否定してしまいがちです。
採用面接で心がけておくべきポイントはどのようなことでしょうか。
採用時の面接のポイントは、約束どおりに時間に来訪するか、面接にふさわしい服装であるかなど、当たり前のことが意外に重要です。人の顔を見て話すか、顔の表情、声の大きさなども大切です。
面接では、いろいろなことを質問しますが、本籍地や家族の職業など、質問してはいけないこともあるので注意をしましょう。
職歴のある人の場合は、前の職場を退職した理由を聞いてみてもいいでしょう。理由が問題なのではなく、以前の勤め先を悪く言うようであれば、NGを出します。
自分の長所、短所、またこれまでに失敗したことなどを聞くのもいいでしょう。失敗はないというと、ちょっと考えてみたほうがいいかもしれません。
健康状態を確認することも大切。採用後に発病し、実は病気を隠していたということがわかったというケースも少なくはありません。
病気のことは聞きにくいものです。事前に簡単な質問シートを用意して、この1年間の大きな病気や常用する薬の有無など記載してもらってもいいでしょう。
面接は複数で行うことも必要です。面接時ばかりではなく、電話での問い合わせなどのときから、受け答えなどには注意しておきましょう。
しかし、最終的には、「自分の感」です。
経営者は、失敗もしながら、その感を養っていくことになります。どんなにしっかり面接をしても、100%成功ということはありません。かといって、うまくいかないときに、見る目がないと落ち込むこともありません。誰もが通る道なのですから。どんどんと自分の感性を磨いていくことです。
人を採用した後は、しっかり指導し、気づいた点はあいまいにしないことが大切です。
小さなことを見逃していると、大きな問題になります。
きびしいくらいの指導を乗り越えて努力する社員こそ、力を発揮してくれるでしょう。
きびしくすると退職すると言われますが、仕事に対する覚悟も面接のときに確認しておきたいものです。
優秀な人でも仕事への覚悟、やる気、取り組む姿勢が不足していると、力を発揮できません。「去る者は追わず」と経営者が覚悟することも、また必要でしょう。
※経営者のみなさんへのお話を12回シリーズで連載してきましたが、今回が最終回です。これまでのお話をヒントにしていただければ幸いです。次回より新しいシリーズコラムでお会いしましょう。
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