海の世界と多神教 VS 陸の世界と一神教【2009年 第 8 回】

【 2009年 第 8 回 】海の世界と多神教 VS 陸の世界と一神教 もう一つの日中関係 黒潮枢軸

大山 宜男(オオヤマ ノブオ)

一神教の共通点

「愛国心」という言葉を聞いて皆さんはどう感じられるでしょうか? 普通、この言葉はポジティブな意味合いで使われることが多いように私は思います。

「一神教」という言葉から、皆さんは何を連想されるでしょうか? 多分、キリスト教やイスラム教を想起されるのではないかと思います。

この二つに共通することがあります。それは「排他的」だということです。各々の反意語を考えてみると分かります。
「愛国心」の反意語は(「嫌国心」という人は別にして)「博愛心」であり、「一神教」の反意語は「多神教」でしょう。「博愛心」と「多神教」に共通するのは排他的でないことです。自分や自分達のグループの価値観とは別の価値観の存在と尊厳を以て相対化し共存することが出来るか否か、人類の歴史はいまこのことを真剣に考えるべき時期に差し掛かっているのではないかと感じます。

歴史を紐解くと、19世紀以前の戦争と20世紀の戦争での死者の数が桁外れに違うことに気づきます。科学技術の進歩や大量破壊兵器の開発が大きな要因ではありますが、国民国家が成立する以前の封建国家における戦争は、封建領主間の争いにすぎませんでした。
即ち領主も戦士もお互いに愛国心に目覚めていない時代であり、一族の富や相続のために戦争をし、又、戦士も傭兵であり、互いに落とし所を知り、排他的ではなかったと言えます。

しかし、十字軍は違いました。キリスト教とイスラム教はお互いに一神教であり、相手は異教徒。自らの神の前に異教徒は虫ケラ同然であり、殺戮は正義でさえあったわけです。この戦争は排他的でした。
第二次大戦を終えるのに対独戦ではなく対日戦に原爆を投下したアメリカ、やはり異教徒は虫ケラだから原爆を投下できたのではないのでしょうか?

厳しい気象条件の地域で生まれた一神教

歴史を学ぶ人は、この指摘に反発されることは少ないと思います。しかし、ここからは違います。私のイマジネーションは飛躍します。一神教は寒暖の差が大きく、非常に乾燥した厳しい気象条件の地域で生まれたように思います。
子供のころに読んだ子供向けの聖書やイスラム教が支配する砂漠地域からそう思うのです。
一方で多神教の代表はギリシャ神話であり、ローマ帝国の神々です。また我が日本にも沢山の神様が居ます。福建省や広東省の海辺の寺社にはたくさんの神々がまつられています。どこに居ても海が見える温帯でフルーツや動植物も豊かな地域です。
多分、一神教の環境は人が人に対して優しくあることを許し得ない厳しい環境なのに対し、多神教の環境はあまりにも穏やかで優しいのではないか、これが私の勝手仮説です。

もうひとつの勝手仮説は、人類の国家観というものは封建国家から国民国家を経て世界国家へアウフヘーベンするという理想論です。国民所得が一定レベルに到達するとナショナリズムが弱まり、人は「個の世界」に専心すると読んだことがあります。
確かに社会福祉が進んだOECD諸国では、あまりナショナリズム高揚の報道を聞いたことがありません。一つの歴史観になりますが、国民国家やナショナリズムというのは人類が排他性を捨てて相互に尊厳を認めあう世界国家への一里塚として避けることができない成長痛のようなものなのかと思います。

排他的社会主義の中国、でも中国は一つではない

カール・マルクスが排他的であったかどうか私は知りません。しかし社会主義がレーニンからスターリンに至りソ連一国社会主義を世界に広げようとしたとき、プロレタリアート独裁というのもやはり排他的ではなかったでしょうか。
そして今の中華人民共和国の主、中国共産党は排他的なのか博愛的なのかどちらでしょうか? 共産党一党独裁でなければいけないのは何故なのでしょうか?ここにはナショナリズムとイデオロギーが複合した排他性があるように感じられてなりません。

先月のエッセイで「陸の中国」と「海の中国」の話をしました。それだけではなく、さらに北のウラル・アルタイ語系のトルコ・モンゴル・朝鮮半島から日本へ至る北のルートにも触れ、日本のDNAはこの北ルートと南の「海の中国」ではあるものの、「陸の中国」は余りに遠いと述べました。
上の文脈から察して頂けるように、「海の中国」は多神教であり、「陸の中国」は排他的な北京の広がりのなかにあると感じます。但、中国は仏教・儒教であり宗教に排他性がないから、キリスト教原理主義者ジョージ・ブッシュ対イスラム原理主義のような対立構図にはなりえないとも思います。

 

鳩山新政権のもとで、アジアはアジアなりの共同体を作って行こうという動きが出てきたのは喜ばしいことだと思います。しかし、その具体論を展開するとき、中国を考えるとき、私のいう中国は一つではないということを真摯に考えてほしいものです。日本のDNAは、軍閥に牛耳られた一時期こそあったものの、優しい温帯の海洋国家のそれです。
これと連帯を組めるのは一体どういうDNAなのか、黒潮枢軸という私の主張がここにあるのです。

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