【 2009年 第 2 回 】原油価格の盛衰 資産運用
有田 宏(アリタ ヒロシ)⇒プロフィール
下落する原油価格
グラフはドバイ原油本船積み込みスポット価格、1バレル当たりドル建て価格、2008年4月14日から2009年1月30日までの推移(資料:日本経済新聞)。
2008年6月までは上昇基調が続き、一時140ドルまで記録したのが7月。それを境に一転下落。12月末には一時34ドル。1月30日では44ドル。
この間に円はドルに対し100円台後半から90円前後に上昇しているので、円建てで見た下落幅はさらに大きくなる。
2007年夏のサブプライム問題の発火から、行き場をなくした投機資金が商品市場に流入。そして原油価格は上昇速度を速めた。
しかし2008年夏より流れが変わる。先進国と途上国の経済デカップリングが幻想に過ぎないということが明らかになるなかで、WTIに対するアメリカの投機的取引規制もあり、上昇速度を上回る速度で下落に転じた。
原油の適正価格は?
原油価格上昇による2008年春の運輸、漁業などの方々の苦境。揮発油暫定税率をめぐる騒動。まだ記憶に新しいかと思う。
当時を振り返れば大幅に下落している原油価格は、世界的な経済危機のなかでせめてもの救いともいえるのだが、もし今の価格が適正価格を下回っているのなら、将来に対し大きな禍根を残すことも考えられる。
いくらが適正価格か?1バレル100ドルとも50ドルとも言われる適正価格。あるいは市場で決まっている今の価格が適正価格そのものであるという考えもある。
安すぎる価格の負の側面
適正価格の判定は現実には困難が伴うが、ともかく安すぎる価格の長期的継続は次のような負の側面をもたらすことが考えられる。
①新油田開発の停滞。
安すぎる価格のため,第一として新油田を開発しても採算が取れないための開発の断念。第二として石油業者の利益率減少による開発資金の枯渇。これが将来の原油需給の逼迫を招き、大幅な価格上昇または国際的な資源の争奪戦をもたらすことが考えられる。
②代替エネルギー開発の停滞。
原油価格が安すぎれば、割高となる代替エネルギーに対する需要が減少し開発が停滞する。一方、原油関連への需要増加とクリーンエネルギーの開発停滞から環境問題への悪影響も考えられ、省資源社会への動きにもブレーキがかかる。
以上は原油価格の場合だが、同様に価格が下落している他の資源や一次産品にも完全にではないが当てはまることがある。
例えば穀物価格。適正価格を下回っていれば農業投資の停滞から将来の需給逼迫を招く恐れ。さらに農産物輸出国の所得減少、特に途上国の場合は経済発展に大きなマイナスとなる。
先進国の場合も国内農業保護の名目で、リーマン・ブラザーズ破綻以降懸念されている保護貿易に傾けば、世界的経済は危機の度合いをますます深める恐れがある。
以前のように価格が上昇し続ければ不況下の物価高“スタグフレーション”も考えられたが、今はデフレの懸念が大きくなっている。
世界的な“デフレスパイラル“ともなれば経済の回復にも大きなダメージともなる。そればかりか適正価格を大きく下回ることになれば、潜在的な将来の危機をもはらんでいることになる。
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