【2016年 第4回 円高圧力!米財務省から為替の監視対象とされた日本円】日米欧・金融政策の最新事情と展望
小松 英二(コマツ エイジ)⇒プロフィール
日銀が4月28日に金融緩和の現状維持を決定したことで追加緩和をほぼ織り込んでいた金融マーケットはネガティブに反応し、株安、円高が進みました。
そして翌日に米国の財務省が公表した半期為替報告書の内容は、日本を為替の監視対象に認定するもので、円買いを加速させました。
報告内容や背景・影響などを見ていきます。
米財務省は日本の円売り・ドル買い介入(円高阻止)を牽制している
為替介入などによって為替相場を操作していないか、といった視点で米財務省が新たに設けた「監視リスト」に日本が含まれました。
中国、韓国、台湾、ドイツ、そして日本が、査定基準に該当する5か国(地域)となったのです。
そもそも為替報告書とは、米財務省が毎年4月と10月に米国連邦議会に提出する報告書です。
為替介入などにより為替相場を操作して自国の通貨安を誘導し、米国に不利益をもたらしていないか、との観点で報告されています。
そのため、米財務省が、他国通貨の水準をどう見ているかが把握でき、報告内容によってはドル円相場を動かします。
今回の報告書で米財務省は、貿易収支・経常収支・為替介入といった3条件に絞って為替監視の査定基準を設け、客観的に見ようとしています。
不公平な為替慣行を指摘するにしても、実際には線引きは難しく主観が混じりますが、数値化することで説得力を高めようとしています。
3条件の査定基準は次のとおりです。
2項目に該当すれば「監視リスト」に入りますが、3条件すべてに該当すると米国政府は是正策を求めた2国間協議に乗り出す構えです(現時点で3条件とも該当する国はなし)。
①貿易収支…対米貿易黒字が200億ドルを超えた場合(ちなみに200億ドルは米国のGDPの0.1%に相当)
②経常収支…経常黒字額が各国の国内総生産(GDP)の3%を超えた場合
③為替介入…各国のGDP2%以上の一方的な外貨購入を繰り返し行うような介入(円売り・ドル買い介入など)を実施した場合
日本の数値(2015年)は、
①対米貿易黒字は686億ドルで「該当する」、
②経常黒字は16.4兆円でGDPの3%を超え「該当する」、
③為替介入の実績なし
で「該当せず」となります。
現在(2016年5月6日)円高(ドル安)が進んでいますが、さらに円高が進み仮に日本の財務省(為替介入を所管)が巨額の円売り・ドル買い介入を行い3条件すべてに抵触すれば、日米2国間協議が待っていることになります。
日欧のマイナス金利(通貨安)は米国経済に引締め効果を及ぼす
米国は、2014年頃までは円安(ドル高)を「容認」していましたが、そのスタンスに変化が見られたのは2015年4月の為替報告書からです。
背景には、利上げに向かう好調な米国経済と、それ以外の停滞する日欧経済や新興国経済といったコントラストがあります。
米国が金融緩和から引締め(利上げ)へ転換するタイミングを探り行動を起こさなくとも、その他の国々が大規模な金融緩和やマイナス金利の導入を実行すれば、それだけで米国経済には「実質的な利上げ」に相当する引締め効果(ドル高進行と並行)が現われてしまうのです。
その後のオバマ大統領やヒラリー氏からも、外国政府の通貨安をねらう動きに対して牽制とも受け止められる発言が少なくありません。
米国政府は、各国の不公正な為替政策に対して明らかに「容認」から「監視」に転換したのです。
米国の本音をストレートに表現すれば、こんな感じでしょう。
・日本や欧州のマイナス金利導入は、為替レートを引下げることで輸出を増やし相手国の経済を悪化させる「近隣窮乏策」ではないか。
・米国の利上げの足かせとなり、世界経済のためにも良くない。
・中国の人民元への介入も同様だ。米国としては放っておけない。
仮に日本が円高の流れに抗するために、巨額の円売り・ドル買い介入を実施して3条件すべてに該当した場合、2国間協議が始まります。
最悪の場合、米国の政府調達に日本が排除させること、IMFへ監視強化が要請されることなどが採られるでしょう。
そのため、円売り・ドル買い介入には、査定基準に該当しないような規模の制約(日本のGDPをザックリ500兆円すれば2%は10兆円規模に相当)が掛かることになります。
機敏な投機筋には足もとを見透かされる懸念もあります。
難しい局面ですが、100円に接近する円高も意識せざるを得ないように思われます。
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