【 2009年 第 11 回 】株価の指標(PERとPBR) 資産運用
有田 宏(アリタ ヒロシ)⇒プロフィール
グラフは東京証券取引所によるPER、PBRの推移グラフ。算出基準は以下のとおり。
①期間:1999年1月~2009年10月
②算出日:各月末
③算出対象:東京証券取引所第1部上場銘柄
④使用財務数字:集計対象時の3ヶ月前までの決算数字(実績値)
連結財務諸表を作成している場合は連結の数字
⑤計算方法:株価合計を当期純利益(年率換算)もしくは純資産で除す
計算の過程で単元換算を実施
1.PER、PBRとは
(1)PER(Price Earning Ratio)は株価収益率の略で計算式は下記。
利益から見た株価の指標。この数値が低いほど株価は割安とみなされる。
(注)税引後当期純利益は、連結損益計算書の場合、少数株主利益控除後の数字を用いる。
(2)PBR(Price Book-value Ratio)は株価純資産倍率の略
純資産から見た株価の指標。この数字が低いほど株価は割安とみなされる。
なお純資産は企業の解散価値ともみなすことが出来る。“PBR=1”の場合には“純資産=時価総額”となり、株価は企業の解散価値と一致する。理論的には株価は解散価値を下回ることはなくPBRの下限は1となるはずだが。
(注)1株あたり純資産を計算するには、純資産から少数株主持分(連結貸借対照表の場合)・新株引受権を差し引いた数字すなわち自己資本を発行済み株式総数(自己株式を除く)で除して求める。
2.PER
(1)推移
グラフのとおり直近ではPERは0となっている。これは2008年のリーマン・ショック後、多くの企業が赤字決算となり、PERが計算上マイナスとなってしまったことが原因である。
東京証券取引所では過去の決算数字を用いているが、実際に株価の割安度を判定する上では将来の利益を用いて算出するべきである。なぜなら株価は過去の実績ではなく将来の期待によって決まるものであるからである。
(2)PERの見かた
PERの逆数、すなわち“1/PER”は株式の益利回りと呼ぶ。この益利回りが安全資産利回り(例えば長期国債利回り)に対してどのぐらいのプレミアムを持っているかで株価が割安かを見ることが出来る。
収益が決まっている安全資産に比べ企業の将来の収益は不確実性が高い。株の購入によるリスクの引き受けに対する報酬がプレミアムとなる。
安定的な利益が期待される企業と、新興企業や財務内容の悪い企業などのような将来の利益の不確実性が高い企業を比べた場合には、後者の方がより高いプレミアムが要求される。すなわちそのような企業ではより低いPERが要求される。
以上の考え方を式に表すと下記のとおりとなる。
3.PBR
(1)推移
ストックとしての純資産はフローである利益ほどには大きく変動しないので、PERに比べ変動の大きさは小さくなる。ただし2006年以降PBRの下限値であるはずの1を恒常的に下回っている。原因としては次のことが考えられる。
①“解散価値”と言っても、“PBR<1”となるとすぐ解散するわけではない。“解散価値”とはあくまでも仮想の数字に過ぎない。さらに解散したとしても標準的な時価で売却できる保証はなく当然“買い叩かれ”時価を下回る価格での売却の可能性が高い。
②“純資産”は簿価。時価が簿価を下回っていることも考えられる。将来の利益水準が悲観的であれば、資産の現在価値は低くなる。
(2)PBRの見かた
PBRはあくまでも簿価から導き出した数字である。
同業他社に比べ総資産利益率が著しく低いばあい、企業内部や取引先の問題で資産の活用がうまくなされていないか、資産そのものの陳腐化により利益を稼ぐ力が衰えているか、どちらかであろう。
後者の場合、現状の資産では利益を充分に得ることは出来ず、資産価値を割り引く必要がある。
次にPBRが1を大きく下回るような場合、その企業は重大な問題を抱えている場合が考えられる。そのような場合企業の公表資料から何か見えてくることが多い。
破綻にいたらずとも、やむをえずの一部の事業譲渡となれば簿価はもちろん適正な時価での売却も困難であろう。
株価はそこまでも見越した数字かもしれない。割安といってすぐに飛びつくのは危険なことである。
注意
用語等は日本会計基準に即して説明している。
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