金融政策としての量的緩和 【2013年 第2回】

【2013年 第2回 金融政策としての量的緩和 】投資に必要な経済の知識

有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール

ゼロ金利時代の量的緩和政策

経済に与える効果は?効果を高めるには企業の投資を促進させる政策が不可欠。

昨年12月に安倍政権が誕生、金融政策をめぐり政権と日本銀行の関係も変わろうとしています。政権が日本銀行に要求しているのは、現在行われている量的緩和策の強化と2%の物価目標の導入。物価上昇率2%が見通されるまで金融緩和を続け、かつ2%が達成できなければ日銀に説明責任を求めようというものです。

では、量的緩和政策とはどのようなものでしょうか?本来の主要な金融政策は、公開市場操作といい、日銀が金融機関と債券等の売買を通じて金融機関が保有している資金を調節し、金融機関が保有している資金量が変化することにより市場金利も変動し、それが経済の動きに影響を与えることにより、経済を調整しようとするものです。この場合第一にターゲットとなるのが無担保コールレート翌日物レートで、これがいわゆる政策金利といわれています。

ところがこの政策金利はリーマン・ショック後下がり続け、今の誘導目標は0~0.1%にまで下がりました。実質上ゼロ金利といえるもので、金利の下限が0%とすればこれ以上下げることは出来ません。すなわち伝統的な金融政策では、市場金利の下落を通じて経済を活性化させることが出来なくなりました。

ここで登場したのが量的緩和政策です。金融政策の指標として金利を用いるのを止め、代わりに市場に供給した資金の量そのものを用いようとするものです。例えとして、レストランでお客さんに料理をたくさん食べてもらうために、料理の価格を下げるのではなく、テーブルの上に多くの料理を乗せてしまうようなものです。

この量的緩和政策は日本では今回が初めてではありません。日本の金融システムも1997年からの金融危機の後遺症で万全とは言えない状況にITバブルの崩壊が重なり、政策金利もゼロとなり、これ以上金利を下げることが出来なくなりました。そこで2003年から2006年にかけて量的緩和政策を実施していました。当時は日本だけですが、今回はアメリカのFRBも実質的なゼロ金利とQE1~3の量的緩和を実施しています。

ここで量的緩和が市場で流通している通貨の量にどれだけの効果を与えているかグラフを見てみましょう。

 

グラフは1980年12月末を100とした場合のマネタリーベースとM2を指数化したものです。(執筆者作成)

  マネタリーベース = 日銀券発行高 + 貨幣流通高 + 準備預金額

  M2 =現金通貨 + 国内銀行に預けられている預金

先ほどのレストランの例でいけば、マネタリーベースはテーブルの上に乗っている料理の量。M2はお客さんが実際に食べた料理の量、こういうところでしょうか。

このグラフから見る限りM2は量的緩和を実施している時期は大きく増加しています。一方M2はほぼ一定の割合で増加し、マネタリーベースとの明確な相関は見られません。これだけで量的緩和政策が市場の資金を増やす効果は無いと断定するのは早計ですが、その時々の経済状況により効果も限定される可能性もあります。食欲のないお客さんの前にどんなに大量の料理を並べても食べてはくれないでしょう。

日銀が金融機関に資金を供給し、その資金が貸し出しに向かう事により市場の資金量は増え、経済も活性化に向かうことになります。それが日銀の当座預金に預けられたまま、または国債の購入に向けられたのでは経済に対しても効果も小さくなります。アメリカも今のQE3の効果はまだ解りませんが、QE1とQE2では資金が国内ではなく海外投資に向かい、海外のインフレを招いたのではないか、とも言われています。そのためQE3では新興国から懸念も示されていました。

量的緩和を実施するためには、同時にお客さんの食欲を回復させるような、すなわち企業の投資を促進させるような政策が不可欠でしょう。

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