【2010年 第9回】 今日の相続空模様⑨~内縁の妻は報われるか?~ 家計コラム
平川すみこ ⇒プロフィール
内縁の夫または妻は相続人にはなれない
相続人になれる配偶者というのは、法的な婚姻関係がある者です。ちなみに、別居していても、生計維持関係がなくても、昨日婚姻届を提出して入籍したばかりだとしても相続人です。
一方、婚姻届を提出していない内縁の夫または妻は、同居していても、生計維持関係があっても、相続人にはなれません。社会保険では、生計維持関係があれば内縁の夫または妻にも遺族年金が支給されることもありますが、相続においては、何年生計維持関係があろうが、まったく論外なのです。
婚姻届を提出できない事情があるカップルもたくさんいらっしゃることでしょう。
特に熟年の方の場合、親族に反対されていたり、今さら婚姻という形を取らなくてもという気持ちで、婚姻しないまま一緒に生活されているという方もいらっしゃいますよね。
でも、残りの人生の伴侶として一緒に生活をされているのであればなおさら、ご自身が先に逝ってしまった場合の、残されたパートナーの心情や状況に思いを馳せておくべきではないでしょうか。
二人の間の子どもはどうなる!?
二人の間に子どもがいる場合は、その子どもは相続人になるでしょうか?
第6回のコラム「相続人になれる子、なれない子」でお伝えしましたが、婚姻関係のない男女の間に生まれた子の場合、被相続人が女性の場合は、婚姻関係のない男性(内縁の夫)との間の子どもは、その出産の事実(戸籍への記載)で親子関係が確認できるので、何もしなくても相続人になります。しかし、被相続人が男性で、婚姻関係のない女性(内縁の妻)との間に生まれた子どもは、被相続人がその子どもを「認知」していないと、相続人とはなりません。
内縁の夫または妻が亡くなったときに、相続人になれる子どもがいれば、その子どもが財産を相続できるので、それでよしとすることもできるでしょう。一方、子どもがいなければ対策を考えておく必要がありますよね。
内縁の妻に財産を遺すには?
では、内縁の妻に財産を遺すにはどうしたらいいでしょうか。
- 生前中に内縁の妻に財産を贈与しておく
贈与であれば、相続人になるかどうかに関係なく自分の望む人へ財産を渡すことができます。
ただし、贈与財産の価額が年110万円を超えると贈与税が課税されます。内縁の妻は正式な婚姻関係のある配偶者ではありませんので、20年以上連れ添っていても「贈与税の配偶者控除」の特別控除は適用できません。自宅の土地や建物といった価額が高いものを贈与する場合は、贈与税について考慮しておきましょう。また、もちろん不動産取得税や登録免許税といった税金も課税されます。
なお、生前中の贈与であっても、その贈与財産が贈与者である内縁の夫の相続時に、遺留分の基礎となる価額の算定に加算され、遺留分の権利を持つ相続人から内縁の妻に「遺留分減殺請求」がなれされることもありますので、要注意です。
- 遺言で内縁の妻に財産を遺贈する
遺言によって、相続人でない者へも財産を遺贈することができます。内縁の妻に財産を遺したい場合は、必ず遺言を作成しておきましょう。
ただし、「全財産を(内縁の妻)○○○○子に遺贈する」という内容の遺言が効果があるのは、相続人が誰もいない場合か、相続人が兄弟姉妹(甥姪含む)になる場合のみです。
兄弟姉妹・甥姪以外の相続人がいる場合、その相続人の遺留分(最低相続できる権利分)を侵害していると、遺贈する内縁の妻に「遺留分減殺請求」が行われてしまいます。相続人となる者への遺留分の配慮をした遺言でないと、後々、内縁の妻と相続人が争うことになりかねませんので注意しましょう。
相続人はおらず遺言も作成しないまま亡くなったらどうなるの?
残念ながら内縁の夫が遺言を残さず亡くなると、内縁の妻は財産を取得できません。ただし、内縁の夫に相続人がいなければ、誰も遺産を相続しないことになるので、内縁の妻が「特別縁故者」として取得できる場合もあります。
特別縁故者とは、相続人ではないが、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者です。内縁の妻の場合は、特別縁故者にあたると認められるようです。
ですが、特別縁故者として認めてもらって財産を取得するには、家庭裁判所に対して亡くなった内縁の夫の財産分与を請求する手続きが必要になります。家庭裁判所で特別縁故者で財産分与が相当と認められると、清算後に残存している相続財産の全部または一部がようやく特別縁故者である内縁の妻に与えられます。
- 財産分与の請求までの流れは以下のとおりです。
もしも相続人捜索公告満了までに相続人が名乗り出た場合は、内縁の妻からの財産分与請求はできなくなります。相続人の捜索は事前に専門家に依頼することもできますので、早めに確認しておいたほうがよい場合は、相談してみましょう。
とはいえ、特別縁故者として財産分与を受けるまで相当な期間がかかります。やはり遺言を作成しておくことが最も望ましいでしょう。
死はいつ訪れるかはわからないものです。相続なんてまだ先のことだと思って何も対策をしていないうちに自分が逝ってしまうと、残された内縁の妻はどうなるのか。入籍していなくともこれまで自分を支えてくれたパートナーに報いたい、財産を遺してあげたいと望まれるのでしたら、今からすぐに相続対策にとりかかっておくことが大事ではないでしょうか。
この記事へのコメントはありません。