今日の相続空模様⑩~遺留分にご用心・前半~【2010年 第10回】

【2010年 第10回】 今日の相続空模様⑩~遺留分にご用心・前半~ 家計コラム

平川すみこ ⇒プロフィール

遺留分とは?

民法908条では、被相続人(亡くなった方)が遺言で遺産分割の方法を定めることができるとしています。また、902条では、遺言では法定相続分に従う必要がないことが明記されています。ただし、遺留分の規定に違反することができないとも。これはどういうことでしょうか?

遺留分とは、一定の相続人に与えられた相続財産の最低取得割合で、贈与や遺贈によっても侵害することのできない権利です。この権利を有する者を遺留分権利者といいます。

つまり、遺言は被相続人の最期の意思であるとして、法定相続分に従わずに自由に遺産分割できることになっていますが、それを全部許してしまうと、相続人としての権利を持ちながらも、相続財産を取得できない者がでてきてしまいます。

その相続人が被相続人に生計を維持されていた場合は、その生活が脅かされたり、相続人である家族の協力によって被相続人の財産が維持増加していたにもかかわらず、家族間の財産の公平な分配ができなくなるという恐れがあります。

そこで、民法では被相続人と一定の範囲にある相続人に対して、相続財産の一定の割合について、被相続人が遺言でした処分を取り戻す権利を認めています。
これが、遺留分減殺請求権です。

遺留分権利者になるのは誰?

遺留分権利者は、兄弟姉妹を除く相続人です。
相続人となる配偶者、子、直系尊属(父母、祖父母)で、子の代襲相続人である孫等も含みます。

相続人でない方には、遺留分の権利はありませんので、例えば、配偶者と第1順位の子どもが相続人となる場合、第2順位である父母は相続人ではないため、遺留分権利者とはなりません。
また、相続放棄した方も相続人ではなくなるので、遺留分の権利はありません。

内縁の妻または夫、子どもの配偶者、孫についても、相続人ではないので、遺留分はありません。

遺留分の割合ってどれくらい?

遺留分権利者である相続人全体の遺留分の割合は次のとおりです。


そして、各相続人の遺留分は、上記の相続人全体の遺留分を、各自の法定相続分で分けた分となります。
<例>
 ○相続人が配偶者と子ども2人の3人の場合
   配偶者の遺留分⇒ 2分の1 × 法定相続分2分の1 = 4分の1
   子どもの遺留分⇒ 2分の1 × 法定相続分4分の1 = 8分の1ずつ

 ○相続人が父母2人のみの場合
   父母の遺留分⇒ 3分の1 × 法定相続分2分の1 = 6分の1ずつ

 ○相続人が配偶者と被相続人の兄の2人の場合
   配偶者の遺留分⇒ 2分の1
   兄の遺留分⇒ なし

例えば、Aさんの相続人が妻と長男と二男の3人としましょう。
Aさんが、子どもたちも独立して生計を立てているから財産は遺さなくてもいいだろう、全財産(1億円)は妻に相続させることにしよう、という遺言を遺した場合。
長男と二男が相続できる財産はないことになります。

でも、長男と二男には遺留分がそれぞれ8分の1あります。

1億円の8分の1は1,250万円です。長男や二男には、それぞれ1,250万円までの財産をAさんの妻である自分の母親から取り戻す権利、すなわち遺留分減殺請求権を持っているのです。

遺留分を請求されたら応じなければならないの?

「お母さんに全財産を相続させるのがお父さんの希望なんだろうから、僕たちはそれに従うよ」ということで、長男や二男がAさんの妻である母親に遺留分の減殺請求をしなければ、それで丸くおさまります。

でも、「いや、僕たちにも財産を相続する権利はあるんだから、遺留分はしっかり取り戻すよ」ということで、長男や二男が母親に遺留分の減殺請求をしたとしたら・・・

Aさんの妻は、その請求に応じなければならなくなります。
なぜなら、民法が遺言でも違反することができない、と規定しているのが遺留分ですから。

もし、1億円の相続財産が自宅の土地と建物だけだったとすると、妻はその家を処分して、子どもたちに1,250万円ずつを払う必要があります。もしくは不動産の持分を共有にするという方法もありますが、現金で戻して欲しいと請求されることもありますよね。

金額や財産の分割方法は協議して決めることもできますが、それぞれが自分の希望を主張しあうと、まとまるものもまとまらなくなりますし、嫌な感情が増幅されて後々まで引きずりかねなくなるでしょう。

まさか子どもたちが、そんな請求を自分の母親にすることはないだろう、って?
いえ、そうとばかりは限らないのです。
もし、遺留分の請求をされたら、大変な思いをするのは、あなたが遺言で財産を遺してあげようとしている方なのですよ!

自分の死後、自分の遺言をめぐって相続人たちが争うことのないように、生前中に対策をしておいたり、遺留分に配慮した遺言を作成しておくことが望ましいですね。

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