マイアドバイザー® 菅野美和子 (スガノ ミワコ)さん による連載コラム(不定期)です。
『世帯分離』のあれこれ 4回目のテーマは「 世帯分離で介護保険の負担は軽減できる?」です。
介護が必要な状態となると、多くの場合、働いて得る収入の道は閉ざされ、介護の費用は増え、実際の介護もさることながら、経済的にきびしい状態になってくるでしょう。少しでも家計が楽になるように節約を考えたときに「世帯分離」が検討に上がります。介護費用の軽減を考えての世帯分離は増加する傾向にあります。介護保険と世帯分離はどのような関係になっているのでしょうか。
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介護保険料のしくみ
65歳以上の介護保険料は、市区町村ごとに、所得や年金収入によって細かい保険料段階が決められていて、どの段階に該当するかによって決まります。そこでは、住民税非課税世帯と課税世帯に、保険料の差があります。本人が住民税非課税で、さらに世帯全員が住民税非課税の場合は、課税世帯より保険料段階が下がります。
例えば、親夫婦と子ども夫婦が同居する世帯を考えてみましょう。年金で生活する両親は非課税、現役会社員の息子は課税であれば、世帯分離することにより、保険料負担は軽減されます。親夫婦と子ども夫婦は、家計を分けて管理していることも多く、それぞれが別世帯でも不自然ではありません。
他に収入がなく、年金額が80万円(年額)以下であれば、住民税非課税世帯の対象です。住民税非課税世帯になると、介護保険料が減額され、保険料は節約できます。
介護保険を利用するときの負担
介護保険のサービスを利用する場合、所得に応じで1割~3割の利用者負担が必要です。40歳以上65歳未満の人は所得にかかわらず1割負担ですが、65歳以上の人は本人の所得や年金収入、世帯内の65歳以上の人数などによって負担割合決められます。本人の所得だけで計算すると1割であっても、同世帯の65歳以上の家族の収入を併せると2割になるとこともあります。
このような場合は、世帯分離すると、負担が軽減される可能性はあります。ただし、これが夫婦であれば、夫婦の世帯分離は認められない可能性が高いでしょう。
90歳の親と65歳の子が同一世帯で、親と子の世帯を分けるということであれば考えられます。
介護保険の自己負担額が基準を超えた場合に、超えた金額を返戻する高額介護サービス費があります。高度介護サービスの負担額は、世帯の年収によって自己負担額の上限が決まります。したがって、世帯年収が低ければ、その分自己負担上限も下がります。
ここでも課税世帯、非課税世帯が上限額にかかわっています。介護保険を利用している人が非課税であっても、たとえば子どもと同居していて、その子が課税者であれば、課税世帯です。ここでも、世帯分離をすれば、その経済的効果があります。
介護保険の補足給付
介護保険では、施設を利用した場合の食事代や水道光熱費などの住居費は自己負担です。ところが、所得の低い人までもすべてを自己負担とすると、施設を利用できないことになりかねません。そこで、基準を決めて一定額を「補足給付」として介護保険で負担するようになっています。
補足給付を受けられるのは、住民税非課税世帯が前提です。しかも、所得だけではなく、預貯金などの金融資産も補足給付の要件です。住民税非課税世帯であっても、預貯金などの財産を一定以上もっている人は対象外です。
夫婦のうち1人が施設に入所している場合、住民票を別世帯とすることもあります。補足給付を考えると世帯分離がよいのではと考える人もいるかと思いますが、補足給付に関しては世帯分離の効果はありません。補足給付は、世帯全員(別世帯の配偶者を含む)が市町村民税非課税の場合が対象です。さらに、夫婦の資産は合算されます。
世帯分離とは、同じ家に住んでいても、別々の世帯として暮らしているので、家族のまとまりを分けることです。その結果、経済的なメリットが生まれることがあり、得をすることが本来の目的ではありません。
どのようなまとまりで家計を運営しているのかを基本にして、その中で非課税世帯には配慮をするということですので、本来の意味は正しく理解しておきましょう。
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