米国不動産事情II【2010年 第 5 回】

【 2010年 第 5 回】米国不動産事情II ~ アメリカ事情

 竹内 守(タケウチ マモル)

日本でも米国不動産情報が、報道されていると思いますが、ここで、最近の米国不動産市場に関する様々な話題を振り返ってみましょう。

中古住宅販売

3月の販売件数は、季節調節済み年率換算で535万戸と、前月2月の501万戸から6.8%の増加、前年同月比461万戸からは16.1%もの増加となりました。

新築住宅販売

3月の販売件数は、季節調節済み年率換算で41.1万戸と、予想の33万戸を大幅に上回り、前月比26.9%増と1963年4月以来47年ぶりの大幅増です。

住宅販売保留指数

3月8.2%増の97.6。売買契約成立件数を表す指数で、1,2ヶ月の先の販売件数に直に反映する。

差し押さえ物件

2010年度、第一四半期のフォークロージャー過程件数は、対前四半期比7%増、対前年同期比16%増の93万2千件で、特に、銀行差し押さえ物件の件数が増加しているところから、昨年まで増加を続けていた不良債権処理件数が減少し始めてきたこと、つまり、これ以上のフォークロージャー件数の増加が見られなければ、市場正常化の傾向にあると見て取れる。

全米住宅販売中間値

$170,700と対前年比0.4%増。全米単位では、2月に最低値である$164,600をつけてからの上昇となりました。カリフォルニア州では、昨年2月に最低値$245,170をつけて以来上昇を続け、3月は$301,790まで回復、史上最高値は2007年5月の$594,530でした。

また、上記以外の景気を現す指標として、2月以降の株価の回復が、直近まで8週連続して上昇し 4月23日には、リーマン・ショック以来、終値ベースでの最高値を更新しました。2009年3月9日にリーマン・ショック以降の最安値をつけて以来、一年以上にわたり上昇トレンドにあります。失業率は、3月に9.7%と、昨年10月に10.2%をつけて以来高止まりをみせ、これ以上の上昇の傾向が見られず、逆に新規失業保険申請件数等から判断して減少傾向にあります。

 

回復し始めたアメリカ景気

皆さんは、これらの数字を見てどう思われるでしょうか?「さすがアメリカ、さすがオバマ大統領だと思われるでしょうか?」日本では、バブル崩壊後、空白の10年間と言われるほどの年月がかかったのに、アメリカは景気後退入り(2007年12月)後、わずか2年足らずで、もう既に回復し始めています。「もう不動産価格も底をついたと言えるのではないか?」等々、恐らくは総体的に楽観的な意見を持たれているのではないでしょうか?

アメリカ国内でも、ミリオンを超えるような高級住宅は依然下げが見られるようですが、一般の住宅は、販売件数の大幅な伸びにも見られるように、既に不動産市況は下げ止まり、回復基調になっている。」等と同様の論調が見られます。

連邦所得税還付制度の寄与

ただし、これには、現行4月30日までの売買契約成立に適応される、最高$8,000の連邦所得税還付制度が大きく寄与していることは間違いありません。実際に、ファースト・ホーム・バイヤーの全売買件数に対する割合は、2月が42%、3月が44%、4月も最後の駆け込み購入が見込まれ同程度の割合が見込まれています。その半数以上は、「この還付制度がなければ購入を決めていない。」ということを考えますと、5月以降の件数がどうなるかというのが気がかりです。

5月以降夏にかけて、全米では季節的に売買件数が増える時期となっています。この還付制度も、ある一定期間以上の軍役に服していたものには1年間の延期が決定しておりますし、弊社のあるカリフォルニア州では、5月1日以降の売買契約完了者には$10,000の州税還付制度等もあり、大幅な販売件数の下げは見られないのではないかと言われていますが、「年内は、下げ止まりと宣言はできない。」という慎重派意見もあります。

行われていない利上げ

このような意見を支持する動きとして、米連邦準備制度理事会による利上げが行われていないことがあげられています。その声明の中で、ここ何回か続けて言われているのは、「確かに景気回復が認められるいくつかの指数も出ているが、比較的長い期間にわたり、現在の金利水準を維持するのに相当な裏づけがあり、今後もそれらの動向を注視していく。」ということです。

本格的な景気回復にあると見た場合、まずこの利上げがあってしかるべきだと思われますので、いつ利上げがあるか、また、その時点での不動産市況を示す指数はどうなっているかを見極めるまでは確実に言えないということです。

また、詳しくは後日、“不動産事情III”でお伝えしますが、商業不動産物件のフォークロージャーが増えてきていることも利上げに踏み切れない要因のようです。商業物件にかかるローンは、特に地方銀行が融資していることが多く、景気後退から企業の廃業・オフィス移転等によるテナント収入の減少によりローン支払いが困難となり、それが融資を実行した地方銀行の財務状況を圧迫するということです。サブプライム後の住宅不動産で見られた現象が、商業不動産でも見られてきているということです。

米国不動産の下げ止まりは、もうしばらくは様子を見る必要があるようです。

次回は、アメリカの退職プランについて、ご説明いたします。

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