米国不動産事情III:今後のアメリカ商業物件の動向【2010年 第 7 回】

【 2010年 第 7 回】米国不動産事情III:今後のアメリカ商業物件の動向 ~ アメリカ事情

 竹内 守(タケウチ マモル)

皆さん、こんにちは。

前回の米国不動産事情II同様、米国不動産市場に関する直近の様々なニュースを振り返ってみましょう。

 

中古住宅販売

5月の販売件数は、季節調節済み年率換算で566万戸と、前月4月の579万戸から2.2%の減少し、前年同月比475万戸からは19.2%の増加となりました。

新築住宅販売

5月の販売件数は、季節調節済み年率換算で30万戸と、前月比32.7%の大幅減と、統計上さかのぼれる1963年以降で過去最大の落ち込みで、その水準は過去最低となりました。

住宅販売保留指数

3ヶ月連続の上昇で、前月4月の104.6より6%増の110.9となりました。この指数は売買契約成立件数を表す指数で、1・2ヶ月の先の販売件数に直に反映します。

■4.5月の住宅差し押さえ件数は、対前月比3%減、対前年同月比では1%に満たない微増の32万3千件弱でした。差し押さえ通知の件数は、減少していますが、銀行差し押さえ件数には、大きな変化はありません。

全米住宅販売中間値

$200,900と対前年同月比9.6%減。全米単位では、2月に最低値である$164,600からの上昇となり、カリフォルニア州では、昨年2月に$245,170の最低値をつけて以来上昇を続け、5月には$324,430まで回復しました。ちなみに、史上最高値は2007年5月の$594,530という記録があります。

また、6月22-23日に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利を現行の最低金利で据え置くことを決めました。前回のコラム以降、景気回復は継続していることに変わりはありませんが、その回復ペースが当面緩やかになると判断せざるを得ない材料も見られるようで、やはり一本調子の景気回復を口走るのには、まだ、時期尚早のようです。

前回、商業不動産物件の差し押さえ件数の増加も、利上げに踏み切れない要因のひとつです、とご説明をしましたが、多くの地方銀行が融資しているコマーシャル・ローンは、景気後退から企業の廃業・オフィス移転等によるテナント収入の減少によりローンの支払いが困難となり、融資銀行の財務状況を圧迫しているのが現状です。サブプライム後の住宅不動産で起きた現象が、今回は商業不動産でも見られてきているということです、とお伝えしました。地方銀行だけを挙げておきましたが、それ以外にも主な商業不動産ローンの提供者としては、ファニーメイ(連邦住宅抵当公庫)、フレディーマック(連邦住宅金融抵当公庫)、CDO, MBS,ABSなど証券化されている商品を購入した企業・ファンド、保険会社などが挙げられています。今年の第一四半期終了時点で、総額3.31兆ドル残高があると言われていますが、上記機関で、トータル80%を所有しています。

全米抵当貸付銀行協会が、最近、2009年度第四四半期と2010年度第一四半期との比較で発表したレポートによれば、

証券化されたローン 30日以上の遅れの割合が1.54%から7.24%に上昇

保険会社所有 60日以上の遅れの割合が0.12%から0.31%に上昇

ファニーメイ 60日以上の遅れの割合が0.16%から0.79%に上昇

フレディーマック 90日以上の遅れの割合が0.05%から0.24%に上昇

銀行 90日以上の遅れの割合が0.32%から4.24%に上昇

と、いずれも著しい増加を見せております。特に、証券化されたローンと銀行の増加が顕著であり、これは、まさしく、住宅用サブプライム問題から端を発した世界同時不況への流れと同様の動きを見せかねない兆候になりうる現象です。単純に比較はできないと思いますが、住宅ローンの遅れの割合が、20%-30%あったことを考えますと、これから先、さらなる増加が見られることもありうると言わざるを得ません。

景気回復の一方新規雇用は消極的

冒頭でも述べましたように、ペースは落ちたといっても景気は回復傾向にあることは間違いなく、労働市場に回復の兆しも見えてはいますが、一方でまだ、新規雇用は消極的であり、新たな設備・ソフトウェアへの投資はなかなか期待できないようです。

現在、オフィスビルの空居率は前四半期から増え全米平均で16.6%あります。この率は、2010年度はそれほどの変化はなく、2011年度に緩やかな改善が見られのではないか、と言われています。この回復は、やはり人口が集中している大都市から始まるはずですが、ニューヨーク、ボストン、マイアミ、ロサンゼルス、サンフランシスコなどもやはり空室率の下落に歯止めがついてはいないようです。但し、1スクエアフィートあたりの賃料は、ここ12ヶ月でそれぞれの地域で、既に10%以上の下落となっています。
ある業種によりますと、この傾向は、新たな雇用に伴うオフィス拡張の動きなどから、これら既に低くなった賃料物件への入居希望が増えてくることも期待ができるとのことです。それによる、商業物件市場の回復を期待したいところですね。

オバマ政権で発案された様々な景気浮揚策のなかに、大企業だけでなく、中小企業への支援策も含まれており、これらが奏功し堅固な回復が見られてくるのか、それとも国内問題にとどまらず、欧州の財政不安に伴う金融市場の混乱が長引いたり、中国人民元の為替政策の影響など外部要因による回復の鈍化がまだ続くのかによっては、住宅不動産市場のみならず、商業物件市場も大きな影響を受けることは間違いないでしょう。

次回は、この住宅価格の下落とともに下がっています、過去40年での最低住宅ローン金利についてご説明します。

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