横井規子 の『金融教育』現場リポート  第8回<ゲームを活用した金融教育>少年院や放課後等ディサービスでの実践報告

8回目のテーマ <ゲームを活用した金融教育>少年院や放課後等ディサービスでの実践報告

『親子のためのお金教育の専門家』、元銀行員・ファイナンシャルプランナーの横井規子です。

「このままじゃ、将来、お金で失敗しちゃう!」

我が子のお金のしつけをやり直した経験から、金融教育が重要と実感。それをきっかけに親や子のためのお金の授業をスタートし、これまで300校、17,000人が受講しています。

学校授業での経験や金融教育について、1年間お伝えしていきます。

横井規子プロフィール

 

 

全国各地で、ゲームを活用した金融教育講座やイベントが開催されています。模擬硬貨で買い物体験ができたり、投資の仕組みが学べる等、優れた学習ゲームが数多くあります。私もよくゲームを活用して講座をしています。今回は少年院と放課後等ディサービスの実例をご紹介いたします。

教育現場で求められるアクティブ・ラーニング

私は学校授業で、お金の使い方や金銭管理の方法を子供達に伝える際に、ゲームを活用することが多く、教師の皆さんから喜ばれております。

 

なぜなら、教育現場では現在、アクティブ・ラーニングが求められているからです。アクティブ・ラーニングとは、能動的学習のことを指し、学習者(児童、生徒、学生等)が受け身ではなく、自ら能動的かつ積極的に学ぶことができるように設計された学習のことを言います。グループディスカッションやグループワーク等が有効的な方法として挙げられています。

 

自ら考え、他者の意見も聞きながら物事を広く捉える力を育てるには、座学だけではなく、この手法を取り入れることが重要だと私も思います。このことから授業では、ゲームを活用して自ら考えさせる時間を設けているのです。

娘のお金のしつけに役立った「お小遣いゲーム」

そもそも、金融教育にゲームを取り入れようと思ったのは、それが娘のお金のしつけに大いに役立ったからです。幼稚園に通わせていた頃に、家庭教育として、ベネッセコーポレーションの幼児向け通信教育教材「こどもちゃれんじ」を利用していましたが、「お小遣いゲーム」が付録としてついていたことがありました。金種や買い物の仕方、おつりの概念等、なかなか口で教えるには難しいお金のことを、娘はゲームを通して感覚的につかんでいきました。

 

「金銭教育総合研究所マネーじゅく」のお小遣いゲームも活用しました。マネーじゅくは、金融教育に役立つ様々な学習教材を開発し、啓発活動も行う任意団体です。ゲームを親子で楽しみ、カードに記されている様々なメッセージを受け取って、娘はお金の大切さがより理解できるようになりました。娘が成長する様子を見て、私も変わりました。金融教育を仕事のベースにしようと、大きく舵を切ったのです。

 

社会復帰に向けて金融教育に取り組む少年院

数年後、思いもよらぬところから連絡をいただきました。それは北海道内にある女子少年院からでした。

 

少年院では少女達の退院に向けて、様々な取り組みを行っています。その一つが金融教育です。円滑な社会復帰に向けて金銭管理力を育てるため、以前から外部講師による講座を開催していたようです。これまでとは違う視点の学習をしたいと考え、私をみつけてくださいました。

 

少女達のお金に対する感覚や考え方は様々です。アルバイトを含めて職業経験のない子もいれば、大金を稼いでいた子もいました。「お金があったら遊興費に思い切り使ってしまおう」、「お金がない時は、悪いことであっても手に入れよう」と考える子もいるため、誤った価値観を変えていきたいと、担当教官から話を伺いました。

受講者の年齢は14歳から19歳とばらつきがあり、社会経験も大きく違います。発達が気になる子も含め、全員が理解でき、しかも楽しく学ぶためにゲームを活用しようと考えました。使用する教材は、先ほどお伝えした、マネーじゅくが当時開発中だった「やりくりさんだん」です。

 

 

やりくりさんだんでリアル体験

やりくりさんだんは、何らかの障がい特性を持つ人向けに、お金のやりくりや記帳を体験できるカードゲーム。「特定非営利活動法人サポートひろがり」が運営する事業所に通う、知的障がいや自閉症スペクトラムのある人々にテストプレイを何度も行い、作り上げたものです。

 

3種類のカードを引いてゲーム上で買い物をしたり、日常で起こりそうなことを体験していきます。すごろく型式なので、サイコロをふって止まったマスでカードを引き、お金を使っていきます。自分の欲しい物やサービスにお金を使うだけではなく、交際費としてお金を出したり、消費者被害にあう等、カードには想定外の出費もあります。ゲームと聞くと、非現実的なことが起こるように感じるかもしれませんが、現実に即した内容にしているのが特徴です。

 

カードの内容を利用者にあわせて変更することもできます。「だから、少年院でやってみては」と、ゲームの開発者から後押しされ、少女達に体験してもらいました。

 

一人暮らしの社会人という設定で、食費や家賃等を差し引いて自由に使える金額を3万円に設定し、欲しい物や受けたいサービスを考え、カードの内容に沿ってお金を使っていきました。どのグループも大盛り上がりでしたが、現実に起こり得ることばかりなので、計画的にお金を使うことや、貯蓄の大切さを身に染みて感じ取ってくれたように見えました。

 

「使える金額が少なくてがっかりしたが、現実的な金額だと思うので、退院したら考えてお金を使いたい」、「自分は目の前にお金があったらすぐに使うタイプだと気づいた」等の感想をいただきました。適切な金銭管理の方法を、楽しみながら学ぶためにゲームの活用も有効だと思いました。

 

障がいのある子も、楽しみながら金銭管理を学べる

障がいのある子にも、やりくりさんだんを体験してもらいました。主に札幌市内で事業を展開している、就労準備型放課後等ディサービス「ジュン・ハート」に通う、中学生から高校生までのお子さん達です。

こちらでは、就労準備型・体験プログラムの一環として、金融教育も取り入れています。2023年度は、特定非営利活動法人お金で学ぶさんすう®との協働事業として、一般財団法人ゆうちょ財団の助成金を活用し、「暮らしとお金を学ぶ講座」を10回開催していきます。

具体的には、金銭管理、金融機関の仕組み、消費者トラブル、キャッシュレスや借金の怖さ等を学ぶ他、予算の中で買い物をして料理をする時間も予定されています。まさに、生きる力を育てるためのプログラムです。私は講師としてそのほとんどを任せていただくこととなりましたが、初日に取り入れたのがやりくりさんだんです。

実は、ゲームを活用した講座をすることに迷いがありました。子供達はカードに書かれた出来事をイメージできるのだろうか、音に敏感な子がいたら、すごろくのサイコロの音に神経をとがらすのではないだろうか、止まったマスでカードを引き、買い物の判断ができるのか、お金を払って記帳することは難しいのではないだろうか等と、心配な気持ちが大きかったのです。

しかし、杞憂でした。思っていた以上に楽しんでくれていたのです。それは、ゲームのサポートについてくださった職員の皆さんのお力によるところが大きいです。子供達と普段接していますので、性格や対応の仕方が分かっていらっしゃるので、その子にあった声かけをしてくれていました。子供達とコミュニケーションを取りながら学習もできるので、事業所に一つゲームがあってもいいかもしれないとも思いました。

なぜなら、金融教育は継続的なサポートが大切だからです。利用者にお金の問題が発生した時、一人暮らしを始める等、何かあった時に何度も学んでいただけるようにと、ゲームの購入を検討している事業所もあります。私も、支援者や利用者をどのようにサポートできるのか考えていきたいと思っているところです。

このように、ゲームを活用した金融教育は、工夫も必要ですが、多くの場で有効ではないかと考えています。ご参考ください。

 

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