9回目のテーマ <大学生への金融教育>パソコンやタブレットを活用して立てる!将来の生活設計
『親子のためのお金教育の専門家』、元銀行員・ファイナンシャルプランナーの横井規子です。
「このままじゃ、将来、お金で失敗しちゃう!」
我が子のお金のしつけをやり直した経験から、金融教育が重要と実感。それをきっかけに親や子のためのお金の授業をスタートし、これまで300校、17,000人が受講しています。
学校授業での経験や金融教育について、1年間お伝えしていきます。
横井規子⇒プロフィール
毎年、いくつかの大学で金融教育講座の機会をいただいています。最近は、学生が一人一台パソコンやタブレットを持つのが当たり前になっていますので、それを大いに活用しています。今回は、大学生への金融教育についてお伝えします。
講座ではワークやディスカッションを意識。パソコンも活用!
大学から金融教育のご依頼をいただく際、私の場合、テーマはライフプランや金銭管理に関するものがほとんどです。大学の教授や講座担当者が、それを選ぶのには理由があります。
・将来をイメージできず、就職活動に身が入らない学生がいる
・言われるまま多くの民間保険に加入している
・借金で首がまわらないという卒業生がいる
・詐欺にあう学生もいる
・預金だけで資産形成は無理!運用の知識をもってもらいたい
こういった心配ごとがあるためです。
学生が自分ごととして捉えて学べるように、講座の内容や進め方には工夫が必要です。担当者や教授の中には、アクティブ・ラーニングを重要視している方が少なくないため、ワークやディスカッションの時間をなるべく設けるようにしています。
また、パソコンやタブレットを使用して講座を行う機会も増えています。今や、学習や就職活動などで、学生が一人一台、パソコンを持つ時代。大学も、講義や自習などで使用できるパソコンを設置した実習室を設けているのが一般的です。そういう環境が整っている大学では、インターネットに繋いで、民間保険の内容を比較させてみたり、表計算ソフトを使って将来設計をさせてみたりと、私はパソコンやタブレットを大いに活用しています.
大学院に進みたい!進ませたい!
7年間、講座のご依頼をいただいている大学があります。初めてご連絡をいただいた時、ご担当の教授はこうおっしゃっていました。
「大学院に進みたい学生の背中を押してあげたい」。
進学費用が出せなくて、大学院に進もうとする学生が減ってきているようです。入学時点で、すでに多くの奨学金を借りているため、更に借りることに不安を感じ、進学に一歩踏み出すことができない学生は少なくないと話されていました。
独立行政法人日本学生支援機構「令和2年度 学生生活調査報告」によると、大学昼間部での奨学金受給者の割合は49.6%と、学生のおおよそ2人に1人が利用している状況です。借り入れ額の平均は、労働者福祉中央協議会が2022年9月に実施したアンケートの結果では310万円、中央値では278.6万円です。
これは、学生にとって相当負担の重い金額です。借入額を更に増やして進学するには、それなりの覚悟がいることでしょう。家族の反対もあるかもしれません。しかし、本当に奨学金の額を増やすべきではないのでしょうか。
そこで、ご提案したのが「キャッシュフロー表」作りです。
キャッシュフロー表とは、進学、旅行、車の購入など、今後のライフイベントとそれにかかる金額を表に落とし込み、そのイベントが実現できるかどうか、赤字続きになったりしないだろうかなど、お金の動きをシミュレーションしていくものです。将来の家計の問題を事前に知り、対策を立てることができます。
進学を希望する学生も、4年で卒業する学生も、頭の中だけで考えるのが難しい将来の生活を、表を作ることでイメージできることでしょう。ライフイベントの実現が難しいことが分かった場合、早めに改善策を立てることで望みに一歩でも近づけるかもしれません。大学院進学のために、どこまで奨学金を借りたら良いのか、見当をつけることもできそうです。そう伝えると、学生達に作らせてみようと話が進みました。
エクセルで簡単!キャッシュフロー表作り
こちらの大学の講義時間は1コマ90分です。作成にはある程度の時間が必要なため、2コマ時間をいただきました。前半は、ライフプランの立て方や、キャッシュフロー表について説明をし、後半で自分の10年間のライフイベントを立て、予定金額を入れて表を完成させました。
当初は、手書きで表を作成する予定でしたが、学生は普段からパソコンを使用して学んでいるので、それを活用することにしました。表計算ソフトの「エクセル」で、私がキャッシュフロー表の大枠を作り、それを学生達にダウンロードしてもらって、自分達のライフイベントや数字を入力してもらいました。
エクセルに慣れている学生も多く、手間なく作成ができ、学生には好評だったようです。
・「実際に数字を表に落とし込んでみて、将来の不安がなくなった」
・「しっかり家計管理をしようと思った」
・「やはり大学院に進もうと希望が持てた」
などの声をいただきました。
教授もたいそう喜び、それから毎年、この内容での講座依頼をいただいています。
なお、このキャッシュフロー表作りは、他の大学でも提案して学生にチャレンジしていただいています。「課題レポート」「定期テスト」など、成績評価をする位置付けで、20年分という、長めの表を作成させることもあります。結婚や出産、マイホーム購入など、時間の経過とともにイベントも増えていくので、お金の使い方に関して、より責任を持とうと考えることができているようです。
「知るぽると」の教材を参考に、家計をシミュレーション
奨学金を借りている学生と話をすると、実は卒業後に、毎月どのくらい返済しなければならないのか分かっていない方も少なくありません。卒業を機に、一人暮らしを考えている学生の多くが、生活費の見込み額を分かっておりません。
そこで、大学での金融講座では、一人暮らしの生活費をシミュレーションするワークを行うこともあります。
参考にしているのが、「これであなたもひとり立ち」という教材です。これは、金融広報中央委員会が作成したもので、「知るぽると」というサイトで、この教材と指導書をダウンロードすることができます。どちらかと言うと、高校生向けの教材なのですが、その中のワーク5「ひとり暮らしの生活費」は、大学生でも十分活用できます。
ワーク5「ひとり暮らしの生活費」はこちらから。
ワークでは、学歴別にみた初任給や、30歳未満単身者の支出額が掲載されています。それを元に、自分が社会人となった場合の1か月の収入と支出を予想し、数字をワークに書き込んでいきます。将来の家計や生活のイメージができることでしょう。
私は、このワークを参考に、エクセルで入力表を作り、学生にダウンロードをしてもらって講座で使っています。1か月でどのくらい貯蓄ができるのか、赤字になるのかがひと目でわかるように、数式を入れて自動計算ができるようにしています。
赤字になった場合、「スマホの通信料を7,000円から3,000円に変更してシミュレーションしてみよう」などと、学生が簡単に数字を変更することができます。手書きのワークで修正するより、手間がかかりません。その分、時間に余裕ができるため、家計管理の方法を詳しく説明したり、投資の知識を付け加えて話すこともあります。パソコンなどの機器を、今後も大いに活用することでしょう。
なお、今回お伝えしたキャッシュフロー表などのデータは、ダウンロードしていつでも好きなように使えるよう、学生にプレゼントしています。人生の節目ごとに活用し、お金の知識と判断力を磨いていただきたいと思います。
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