中小企業と確定拠出年金 【2016年 第6回】

【2016年 第6回 中小企業と確定拠出年金】確定拠出年金 きほんのき

宮一 幸子(ミヤイチ サチコ)⇒ プロフィール

 

平成28年5月、確定拠出年金法が改正されました。
中小企業にとっては今回の改正で確定拠出年金を活用しやすくなるようです。

「企業型」はその企業にあわせていろいろな設計ができるしくみ

確定拠出年金には「企業型」と「個人型」があります。
一般的に会社で確定拠出年金を活用するのは「企業型」です。
厚生年金適用事業所であれば規模にかかわらず利用できます。

 

「企業型」は会社が金融機関を決めて、加入者ごとの確定拠出年金専用口座をつくります。
その専用口座に会社が掛金をかけ、加入者本人が掛金を運用し、60歳以降に受け取るものです。
受取金額は加入者の運用しだいで企業側に運用責任がないため積立不足という問題が発生しません。

会社がかけた掛金は全額損金になります。
掛金は給与のように会社からもらっているのに税金も社会保険料もかからず、そのままの金額が口座に入金されます。
運用益にも税金がかからず、受取時にも所得控除が適用され、税金のメリットを活かしながら老後資金が準備できます。

 

加入者を決めることができる

「企業型」は従業員だけでなく役員も加入できます。
不当に差別的な扱いでなければ、規約により加入対象者を定めることができます。
たとえば、「勤続3年以上の者」とか「50歳未満の者」とか「全員加入でなく、希望者のみ」とすることもできます。

 

掛金を決めることができる

掛金は法定の上限額まででの範囲で決められます。
法定の上限額は企業年金がある会社は月額27,500円、なければ月額55,000円です。

 

他の制度から移行できる

確定拠出年金は新設だけでなく、退職一時金や確定給付企業年金のような他の制度から移行してくることもできます。
それまで他の制度で積み立ててきた資産は個人ごとにふりわけてそれぞれの確定拠出年金口座に移し換えることができます。

 

掛金を内枠にした選択制もできる

「企業型」は会社からみると給与や賞与のほかに掛金という負担が続きますが、これを内枠方式にした導入形態も最近は多くなっています。
これはまず、給与や賞与を改定し、従来の給与や賞与の一部をライフプラン手当とした上で「企業型」を導入します。

従業員はライフプラン手当を①給与と一緒に受け取るか、②確定拠出年金の掛金とするか選択できます。
②を選択した人は掛金分手取りが少なくなりますが、税金が安くなります。
また掛金分報酬が下がり等級ダウンすると会社も加入者も社会険料が安くなります。

 

改正法で会社の事務が軽減される

「企業型」を導入するには労使合意の上、規約を作成し厚生局の承認を得る必要があります。
これは事務の手間やコストがかかりますが、中小企業向きの「総合型」もあります。
「総合型」は単独で規約をつくるのではなく、代表企業の規約に追加参入するタイプのものです。

また今後は改正法により、中小企業(従業員100人以下)を対象に、設立手続き等を大幅に緩和した「簡易型」が創設される予定です。

 

 改正法で個人型も活用しやすくなる

「個人型」は個人が加入し、掛金は加入者がかけるしくみです。

中小企業の場合、継続的な事務の負担から「個人型」を活用することもあります。
たとえば従業員各人が「個人型」に加入し、会社が掛金相当分や金融機関へのコスト分を給与に上乗せするなどです。

また今後は改正法により中小企業(従業員100人以下)に限り、「個人型」に加入する従業員の掛金に会社が上乗せできる「個人型への小規模事業主掛金納付制度」が創設される予定です。

 

他の制度との比較検討を

以前から他の制度を利用している場合は、比較して確定拠出年金と併用したり、変更を検討したりするのも一つです。

 

「小規模企業共済」は小規模の経営者の退職金の準備方法です。
途中で解約ができ、万一資金が必要になったときに借り入れもできます。
これはあくまでも経営者個人が加入するもので、掛金は全額が経営者個人の所得控除になります。

 

「中小企業退職金制度(中退共)」は従業員の退職金の準備方法で役員は利用できません。
掛金は全額損金になり、退職時に直接従業員に支払われ、事務の手間もコストもかかりませんが、予定利率が低めです。

 

「保険商品」は役員の退職金や従業員の退職金原資として利用できます。
ただ体況の悪い人は加入できません。また貯蓄性の商品は全額損金算入することはできません。

 

 

中小企業にこそ確定拠出年金

離職率の高い中小企業にとって、60歳まで受給ができない確定拠出年金はデメリットのように感じますが、一方で、「個人の年金資産」として保護されている点はメリットがあると考えられます。

また、確定拠出年金の受け皿があったほうが優秀な人材を中途採用する際もスムーズになります。

 

今までは中小企業をターゲットにした運営管理機関も少なかったため、確定拠出年金のことをよく知らない中小企業が多かったようですが、改正法でこれからは中小企業をターゲットにした動きもでてくるかもしれませんね。

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