池田龍也 の 経済ニュースよもやま話 第9回 経済ニュース10本の柱 「企業活動」

マイアドバイザー® 池田龍也 (イケダ タツヤ)さん による月1回の連載コラムです。

経済ニュースを見るための10本の柱

シリーズ企画、経済ニュースの取扱説明書。経済ニュースの10本の柱は以下の通りです。(私見もふくめています)

① GDP
② 金融政策
③ 日本の財政
④ 景気動向を見る主な経済指標
⑤ マーケットの動き
⑥ 消費動向
⑦ 貿易
⑧ 企業活動
⑨ 世界経済のポイント
⑩ 高齢化社会の課題と諸問題

今回のテーマは、「企業活動」についてです。

池田龍也プロフィール

企業活動と無縁の生活はあり得ません

私たちの生活を消費者という切り口で見てみますと、実は、企業活動と大きくかかわっています。
様々な日用品、衣食住など消費全般で、企業活動と関係ないものはないといっていいと思います。

働いて、稼いで、消費して、という一連の私たちの活動に、企業活動は密接に関わっているだけでなく、経済全体も、そうした企業活動が支えています。

かつては輸出立国

企業といえば、日本経済はかつて輸出立国といわれ、ものづくりの製造業が経済を支えていました。
特に自動車や電機などを中心とする輸出産業は、日本のGDP(国内総生産)の20%前後を支えている時代もありました。

日本は1960年代、高度成長の時代を経験し、その後1980年代から1990年代にかけて、日本の企業が世界に打って出た時代がありました。
日本の自動車メーカーと電機メーカーが、世界の市場に華々しく登場した時代でした。

貿易摩擦からプラザ合意

世界に打って出た日本の製造業は、その後、輸出攻勢とは裏腹に、輸出先の国々との貿易摩擦を生み出す結果になりました。

当時アメリカは財政赤字と貿易赤字といういわゆる「双子の赤字」に悩まされていました。
日本の円が安すぎるから日本の製品の輸出競争力がある、という指摘もあり、ドル高円安を是正しようということで、あの有名な1985年の「プラザ合意」が成立します。

アメリカのニューヨークの「プラザホテル」に先進国5か国(日・米・英・西独・仏)の財務相と中央銀行総裁が集まって会議を開き、ドル高是正に向けて5か国が協調行動することで合意しました。世にいう「プラザ合意」です。

「プラザホテル」

プラザ合意の狙いは、ドル安への誘導で、アメリカの輸出競争力を高め、貿易赤字を減らすことでした。

実際、円はみるみるうちにドルに対して高くなり、1ドル240円前後だった為替レートは、一気に1ドル120円前後へとざっと2倍に急騰しました。
単純計算すれば、240円の商品を1ドルで売っていたのが2ドルになってしまうわけです。
日本の輸出産業は、輸出先での売値が2倍になってしまうという未曽有の危機に直面します。円高不況といわれます。

そこで日本の製造業は、急激な海外展開を始めます。
製造拠点を人件費の安いアジアへ移転し、コストを安くした上に、日本以外のアジアの生産拠点から輸出することで、円高の影響、為替変動のリスクを回避しようとしました。

バブル経済からバブル崩壊

一方、日本では円高が進行して輸出が減少、日本銀行は、円高不況への対策として、低金利政策を継続します。

国内景気は回復に転じたものの、その後、低金利で資金が潤沢に供給され「金余り」現象が発生、金融機関の貸出しも増えて市場は過熱、不動産や株式などが高騰、みなさんご存じの、いわゆるバブル景気を招くことになります。

その過熱して膨張したバブルは長くは続きませんでした。
・日本銀行による利上げ
・当時の大蔵省の不動産融資総量規制
・海外投機筋による先物裁定売り
などが要因となって、バブル経済は崩壊、1990年代は「失われた10年」といわれ、いまやそれが「失われた30年」となって今に至っています。

自動車輸出で中国が日本を抜いた、というニュースをどうみるか

最近、ちょっと気になるニュースがありました。

2023年8月5日
ことし上半期、中国は日本を抜いて世界最大の自動車輸出国となりました。
中国当局の統計によれば、上半期の中国の自動車輸出台数は234万1000台。
これに対し日本自動車工業会が発表した日本の輸出台数は202万3000台だった。

「日本凋落」の文脈でとらえると、まさにぴったりのニュースなんですが、なんでもかんでも、「日本凋落」へと結びつけて誇張するのはいかがなものかと思います。

といますのは、下のグラフをご覧ください。
ちょっと前の資料ですが、日本の自動車メーカーは、2015年の段階でも、海外生産が国内生産をはるかに上回っているのがわかります。
日本メーカーは、1985年のプラザ合意以降の円高を受けて、海外生産を急速に拡大してきました。
輸出を減らす戦略をとってきた日本の輸出台数と、新興勢力の中国の輸出台数を比べる意味がどれほどあるのか、かなり疑問です。

世界全体での生産体制をすでに築いている日本メーカーの場合、日本の主要メーカー8社全体でみると、

世界全体での生産台数 2397万台
国内生産
(そのうち輸出)
739万台
(354万台)
海外生産  1658万台

この統計をみれば、日本メーカーは、いまや、輸出に重点を置くのではなく、海外生産が主力となっているのは明らかです。

中国メーカーの勢いがあるのは認めるとしても、輸出の統計だけで、日本と中国の自動車産業が逆転した証拠、というには、あまりに短絡的な分析といわざるを得ません。

日本経済の復活はありうるのか

自動車産業を例にとれば、大手メーカーの9月の中間決算は、円安の追い風効果もあって、絶好調といっていい結果になっています。
日本の自動車メーカーは、EV(電気自動車)の時代を迎えて、出遅れ感があるのではないか、といいう指摘もありますが、今後、本格的なEVの時代が訪れるのか、その場合、日本の自動車メーカーはどう生き残るのか、あるいは、例えば燃料電池車など、まだまだ別の技術が主流として登場するのか、予断を許さない状況です。

一方、失われた30年の象徴のひとつにもなっている日本の電機産業ですが、こちらも今大きな転換期を迎えているように見えます。

かつて、世界をリードした日本の半導体産業、バブル崩壊後の国際競争の中で、影が薄くなってきたことは否定できない事実です。
ところがいま、再び、復活に向けて動きが出てきています。

日本で次世代の最先端半導体の量産を目指して去年設立された「ラピダス」の工場建設のニュースがありました。
日本の半導体復活を期して始まった官民一体の一大プロジェクト。
トヨタやソフトバンク、ソニーグループなど8社が出資するほか、日本政府も助成して、4年後の生産開始をめざします。
また、半導体受託生産最大手のTSMC(台湾積体電路製造)が熊本に進出するニュースも日本の半導体産業活性化への期待をかき立てています。

「失われた30年」といわれて久しいですが、このような日本の製造業の復活、活性化無くして、「失われた30年」からの脱皮、デフレ脱却はありえないというのが大方の見方ではないでしょうか。

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