岡本英夫のFPウオッチャーだより 第23回 東京ディズニーランドの「感動を与えるサービス」とは ~40年前のオリエンタルランド常務の講演から 【2024年2月】

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

今回は第23回目です。

岡本英夫プロフィール

1980年代には、ファイナンシャルプランニングのほか、さまざまなコンセプトが米国から入ってきた

83年に開園した東京ディズニーランドの「感動を与えるサービス」もそのひとつといえる。

北村和久氏(元オリエンタルランド常務取締役、1992年逝去、65歳)は、前職の三井信託銀行(現三井住友信託銀行)の支店長時代から筆者の勤務先だった近代セールス社の雑誌への執筆やセミナー講師として活躍されていた。
そして、1980年からの第2の人生が東京ディズニーランドの運営主体、㈱オリエンタルランドの常務取締役であった。

オリエンタルランドに移られてからは東京ディズニーランドの運営に関する講演が多くなった。
以下に紹介するのは、1986年に東京都信用金協会で行われた「得意先担当役席者勉強会」での講演内容の一部である。
当時、FPに着目していた筆者の心をとらえ、少しばかり私見を加えて、金融機関等でのFP研修などで紹介し続けた内容でもある。

「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」=声が返ってくる言葉で迎える

オリエンタルランドでは米国のディズニーランドのマニュアルをそのまま使うことを求められていた。
来日した米国の役員から「日本ではゲストに最初にかける言葉は何というんだ」と聞かれた北村氏は「いらっしゃいませ」だと答えた。
すると「いらっしゃいませ」を見てみたいという。北村氏は三越本店と三和銀行大手町支店に案内した。

三越では、10時の開店とともに店長以下の店員が勢揃いし「いらっしゃいませ」と顧客を迎える。
三和銀行では、9時の開店と同時に窓口の女子行員だけでなく後方の役席者のも立ちあがって「いらっしゃいませ」とお辞儀をする。
三越も三和銀行も当時、わが国トップクラスの応対ということで定評があった。

ところが、米国の役員は「この言葉は使うな」という。「いらっしゃいませと」と言われた顧客は何も返事をしない。
これではコミュニケーションになっていない。
ディズニーランドはコミュニケーションと感動を売る場所だ、米国では「ヘェーイ」「ハウユー」だが、必ず返事が返ってくる。
「いらっしゃいませ」しか知らない北村氏は困惑した。

その後、「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」を試行し、最終的に「こんにちは」に落ち着いた。
そして、「こんにちは」というときの条件として「アイコンタクト」(目を見て言う)と「スマイル」(にっこり笑って言う)が付け加えられている。
北村氏は、このマニュアル作成(翻訳)の担当役員でもあった。

「コニュニケーションはお客さまと同じ目の高さで」―そして「まなざし」と「笑顔」

ディズニーランドのゲスト(お客様)は子ども連れも多い。
子どもたちが通りに風船を持って立っている女性キャストに「風船ちょうだい!」と近づいてくる。その時にはしゃがんで子どもと目の高さを同じにし、アイコンタクトとスマイルで対応する。
お子さんの両親はこれを離れたところで見ていて、ちょっといい気分になる。

東京ディズニーランドの中央にはシンデレラ城がある。これも大人と子どもとでは見える風景が違う。
子どもは1メートルちょっとの高さから見るから「うゎー大きいお城!」と感動する。1.7メートルの高さから見る大人が「そうだね、大きいね」と相槌を打っても子どもの感覚とは異なる。
子どもと同じ目の高さで見れば、大きさが違うのがわかる。

筆者も、帰省して幼少のころ三角ベースで遊んだ神社の庭を訪れて、こんな狭い場所であそこまで飛んだらホームランだと大喜びしていたのかと懐かしく感じたことがある。
東京ディズニーランドも開園当初に行ったときと、子ども連れでいったとき、子ども夫婦とともに孫といったときとでは感じ方が異なっている。

さりげない「ちょっとした親切」=「シャッターお願い」はディズニーランドから

ディズニーランドのシンボルであるシンデレラ城。お客さまの8割はここで写真を撮られる。
家族での写真撮影となると、お父さんが犠牲者になって「撮るよ」という場合が多い、次にお母さんがシャッターを押しても家族全員の写真は残らない。
これは、他の観光地などに行ってもよくある経験だと思う。

ところが、ディズニーランドのキャスト向けのマニュアルには、「いったん仕事をやめなさい、シャッターを押しているゲストのところへ行って、今日の記念にあなたも中にお入りください。私がシャッターを押しましょう」と言いなさいと書いてある。
「えっ、悪いね」と会話がはじまる。
そして、2度目の来園からは、キャストに「シャッター押して!」とお願いしてくるようになる。

このほかにも「ゴミと酔っぱらいの徹底排除」「常に毎日が初演でなければならない」「常に非日常的な世界でなければならない」「常に未完成でなければならぬ」といったディズニーランドのノウハウを語られたのだが、ここでは割愛する。

1980年代後半(昭和60年前後)当時ではこれらの話は新鮮かつ衝撃的であった。
北村氏の講演を聞いた方からの依頼で、北村氏があちこちの金融機関、企業などで講演をされた。
実は、この東京都信用金庫協会での講演は、後日「しんきん情報玉手箱」という小冊子にまとめられ、全国の信金に配布されていた。
その効果もあったのである。

マイ・アドバイザーの会員の中にも、東京都信用金庫協会の勉強会で講演されたFPがいらっしゃる。
筆者は主に講師依頼に携わっていたが、北村氏の講演は今でも心に残る。
実はセミナーの企画、講師依頼、そして当日事務局として立ち会うことが、FPとしての幅を広げることにつながっていたのである。

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