木村幸一 の「農地の所有者不明化を防ぐために~相続に関与する専門家として考えるべきこと~」第1回

CFP®1級ファイナンシャル・プランニング技能士であり、司法書士、行政書士としても活躍されている木村幸一さんにコラムを執筆いただきました。

農地の所有者不明化を防ぐために~相続に関与する専門家として考えるべきこと~」として、全3回のコラムの、今回は第1回となります。

木村 幸一 ⇒ プロフィール

 

不動産登記に関するご相談内容の変化


最近、相続をした不動産やご自身がお持ちの不動産について、「何とか手放す方法を知りたい。どうにかなりませんか?」というご相談が増えています。
具体的には、亡くなられた方名義の遠方の不動産などについて、何とか引き継ぎたくない、または処分したいといった内容です。

背景には、相続手続きを進めるにあたり引き受けることをためらっておられたり、また引き継いだはいいが管理が手間になり、何とか手放したいと思っておられるなど、不動産所有にあたっての様々な問題点があるものと推察されます。
近隣の住人の方や、農地や山林については近隣の農家の方など、引き取り手がある場合は大きな問題になりませんが、そのような方がいない場合などは、回答に窮することも多いのではないでしょうか。

土地の所有権放棄は可能なのか?


土地の所有権は放棄できるのか。これは上記のようなご相談に対応された専門職であれば一度は直面をする論点なのではないでしょうか。

従来、土地の所有権の放棄については、民法その他の法律上明確に規定した条文はなく、放棄自体の可否についての議論も活発になされたわけではありません。
しかしながら一部の否定的見解を除き、所有権の放棄自体は解釈上可能であるとされてきました。
ただし、国の手続上それを具現化する方法は現行法上なく、国としても引き受けにあたる国庫の負担増の懸念からか、制度上検討されてきたことはありませんでした。
また、判例及び下級審の裁判例においても、所有権放棄の可否自体について言及したものはなく、登記先例も同様です。

登記をしなければ権利放棄した扱いになるのか?

では、登記をしなければ権利を放棄したものと扱うことが可能なのでしょうか。
民法上、登記はあくまでも「不動産に関する物権の得喪及び変更」についての対抗要件、とされています。登記をしないことをもって権利放棄をしたものと扱うことには無理があり、未登記のままの放置は実体上の権利関係との乖離が常態化することになることから、却って権利関係が複雑化することが指摘されています。

所有者不明土地の増加


現在、相続による所有権移転登記(以下、「相続登記」)をあえて行わない「相続登記未了」の問題が顕在化しており、さらに相続登記を長期間行わず放置することにより、戸籍等の記録により所有者をたどることができなくなっている所有者不明土地が増加しております。

このような土地は、所有者不明土地問題研究会(増田寛也座長)による平成28(2016)年の報告によると、全国の所有者不明率は20.3%、土地面積にして約410万haに及ぶとされており、九州本島の面積(約367万ha)を超えるとされております。

このような状態を放置することにより、管理不全による土地の荒廃による近隣への損害、固定資産税の徴収不能による地域インフラの脆弱化、これらを起因とした管理コストの更なる増大やその負担の責任の所在の不明確化、災害時の復旧復興事業においての妨げになるなど、多様な問題が生じることになります。

さらに相続手続きは解決までの時間を一段と要することになり、権利関係も複雑になっていることから、手間とコストが時間の経過とともに増大します。

次回へ続く

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