平野厚雄 の 実務家FPとして知っておきたい 中小企業の経営者を悩ませるよくある人事労務問題 第9回 会社が実施する社員の健康管理措置

平野厚雄です。 私は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(CFP®)として、中小企業の人事労務問題を中心に活動しています。

仕事柄・・・中小企業の経営者のみなさんとお話しする機会があります。

そこで、これから1年掛けて、『経営者を悩ませるよくある人事労務問題』を中心にお伝えしていきます。

平野厚雄プロフィール

「社員の健康管理」ということを考えるときに、まず問題になるのがうつ病です。厚生労働省が公表した調査では、国内のうつ病患者数は増加傾向にあります。2017年の「患者調査」によると、日本国内でうつ病と診断された人は約100万人に達しており、特に20代から50代にかけての働き盛りの世代で多く見られます。また、世界保健機関(WHO)によると、うつ病は世界的にも主要な健康問題であり、全世界で約3億人がうつ病を患っているとされています。うつ病は自殺のリスクを高める要因でもあり、適切な早期治療と支援が重要視されています。

■会社が実施する社員に対しての主な健康管理措置

このような事情があり、日本でも社員に対する健康管理措置が求めれていて、厚生労働省が定める、会社が実施する社員の健康管理に関する義務的な措置には、以下のようなものがあります(これらは労働安全衛生法や関連法令に基づき、企業が社員の健康を守るために行うべき措置です)。

  1. 定期健康診断の実施

すべての社員に対して年に1回の定期健康診断を実施する義務があります。健康診断の結果に基づき、必要に応じてフォローアップを行う必要があります。

  1. ストレスチェック制度

社員数が50人以上の企業は、年に1回のストレスチェックを実施する義務があります。このチェックで社員のメンタルヘルスの状態を把握し、過度なストレスがかかっている社員へは適切な措置を講じる必要があります。

  1. 産業医の選任

一定規模以上の事業所において産業医を選任する義務があります。産業医は、職場環境の改善や社員の健康管理に関して助言を行います。

  1. 作業環境測定

特定の作業環境において、有害物質などのリスクが存在する場合、定期的に作業環境測定を実施し、その結果を基に必要な対策を講じる義務があります。

  1. 過重労働の防止

長時間労働や過重労働が社員の健康に悪影響を及ぼさないように、労働時間の管理をする義務があります。特に、長時間労働は、過労死や過労による健康障害の原因となるため適正な管理が求められます。

  1. 労働災害防止のための教育・訓練

労働災害を防止するために、社員に対して安全衛生に関する基本的な知識の教育や、作業に伴うリスクの認識と対策に関する訓練等の必要な教育や訓練を行う義務があります。

■そもそも、社員の体調管理は誰の責任?

 最近、経営者からいただくご相談いただくことの1つに「社員の体調不良」があります。社長の本音として、「プロの職業人としてしっかり体調管理しろ!」と言いたくなる気持ちもわかります。では、会社は社員の体調管理について、どこまで言えるのでしょうか?まず、社長や社員の立場かかわらず、大前提として知っておいたいただきたいことは、「社員は自分で体調を整えて働く義務」があるということです。その理由は、雇用契約を結んでいるからです。

雇用契約とは、まず社員の労務提供があり、その労務に対して会社から賃金が支給されるというものとなっております。つまり、まず社員は会社に労務提供をするために自分で健康管理をする必要があるということです。そのことから、会社としては社員に対して、体調管理をしっかりするように言うことは可能です。ただし、ここで注意しなくてはいけないことは、その社員に対する配慮も必要です。

仕事量が増えて精神的にも肉体的にも負荷がかかっている、プライベートで心配事がある等、生きていると色々なことが起きます。つまり、そのような相手の状況も理解した上で伝えることが重要だということです。

つまり、社員も人間ですから、一人の人間として謙虚に接するという姿勢が大事になります。

■まとめ

最近、人的資本経営ということが提唱されています。企業が社員を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことを経営戦略の中心に据える考え方です。そうであるならば、社員の健康管理はまさに「コスト」ではなく「投資」として捉えることができます。社員の健康管理についての会社の姿勢が採用でも問われる時代になってきています。

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