生命保険業界の歴史を検証することで、将来への課題を探っていくコラムを連載していきたいと思います。証券と保険をマスターすれば、FPとして一本立ちできると言われます。なるほど、最も複雑で、顧客からのクレームの多い業界です。
一方で、無責任なマスコミ報道などにより間違ったイメージ・情報が定着した業過でもあります。「へぇ~!!」と驚かれる一般には知られないエピソードを交えながら、正確な現状を確認する一助となれば幸いです。第5回は、損保系生保の誕生が、新たな生保商品開発のきっかけとなった経緯を概観します。
嶋田雅嗣⇒プロフィール
■利差のみ配当商品
□無配当商品の限界、有配当商品の信頼喪失
生命保険会社は、単年度黒字を達成するまで、有配当商品の発売ができないという行政指導があり、新設の外資系生保は無配当商品の販売で営業を開始している。生命保険事業は、当初に膨大な経費が必要なこと、新契約を獲得しても販売手数料等の支払もあり、単年度黒字を達成するには10年以上の期間を要する。営業認可を得るために提出した計画では12年で単年度黒字達成を予定しながら、15年を経過しても達成できていない会社もあり、行政からのヒアリング、指導が行われている。
当然に、損保系生保は無配当商品で開業することが余儀なくされる。ゼロからスタートした外資系生保と異なり、数万単位の代理店網を抱えていることから、単年度黒字達成を7年程度と見込んでの開業ではあるが、有配当商品の優位性を領知しており、配当付商品の開発を検討することとなる。
有配当商品の優位性とは、
・配当金は実質的な保険金の増額となる(インフレ対抗力がある)
・配当金を年金移行できる(商品構成の多様化)
・主契約の保険料払込満了以後の入院特約保険料の支払原資にできる(更新型のデメリット解消)
ことが挙げられる。このため、無配当商品を販売する外資系は、医療保険以外では、変額保険の販売に注力してきた。しかし、バブル崩壊により、変額保険の優位性は消失している。
一方、国内生保は、バブル崩壊後に資産運用に苦慮し、配当金が出せない状況が続いており、「高料無配」(配当原資として保険料を割増しして支払ったが、配当が出ない)と扇情的なマスコミによる批判は過激で、営業面にも大きな影響があり、外資系生保に注目が集まった時期でもある。無配当である分、保険料は割安となり、外資系生保はここぞと、営業攻勢をかけていた。
国内生保は、無配当商品の外資系、損保契約者への追加販売で安定した出力が見込まれる損保系生保に対抗するためにも、割安な保険料商品の開発が急務となる。
□利差のみ配当商品
日本生命:有配当(三利源)より保険料の安い配当のある商品が欲しい
東京海上:少しでも配当のある商品が欲しい
この両社の検討会で、「予定死亡率と予定事業比率はあらかじめ予測できるが、予定利率は市場の影響を受け予測できない」のであれば、運用収益により配当がです「利差のみ配当商品」を開発することが決定した。
両社の目指す方向は異なるものの、同一スキームの商品が誕生する。単年度黒字を達成した暁に、本来欲する有配当(三利源)商品の商品認可を申請するという東京海上の主張も容認されることとなった。
結果、「5年ごと利差のみ配当」商品が、国内生保、損保系生保から相次いで販売されることになった。
国内大手生保と東京海上系のシステム「KLIP」採用損保系生保は、1994(平成8)年10月(損保系生保の営業開始時)から販売開始したが、4社共同開発の「SCRUM」は1年程度遅れての販売開始となっている。
■大手生保の利差のみ配当商品
利差のみ配当 | 主な商品 | |
日本 | NEO(ネオ) | ふれ愛家族NEO 、 ロングラン更新型NEO |
第一 | Uシリーズ | わんつー・らぶU 、 リードU |
住友 | Rシリーズ | 愛&愛R 、 ニューベストR |
明治 | Eシリーズ | NEXT10E 、 フレッシュライフE |
朝日 | Vシリーズ | あんしん倶楽部10(Vシリーズ) |
安田 | Eタイプ | |
三井 | Rシリーズ | |
千代田 | Z |
□1%強の保険料割引
大手生保は割安な保険料を目指したが、具体的にはどの程度の軽減となっていたのだろうか。保険料水準を比較してみよう。
例)終身保険 1,000万円 30歳・男性/60歳払込満了/月払
有配当(三利源) | 18,870円 | 1.0 |
利差のみ配当 | 18,670円 | 0.9886 |
無配当 | 17,750円 | 0.941 |
利差のみ配当商品は、有配当(三利源)に対して、1%強しか保険料は割安となっていないことが分かる。
大手生保は、既存商品をそのまま利差のみ配当商品に置き換える事例が多い。しかも、相変わらずの転換推進で、保険料はお安くなりました、とセールスを展開し新たな不審感を招く事例すら発生している。
配当のある商品を欲した損保系生保に、分があったように見える。
□低迷した配当実績
販売開始後の運用環境は、長期に亘っての金利低下、低金利状態が続いており、資産運用の中心である債券等からのインカムゲインは極めて限られたものとなっている。結果、有配当商品が「高料無配当」と批判されたように、利差にも配当商品も配当が出ないというクレームが発生する。損保系生保の中には、販売開始後20年間に配当を出したのは僅か1年という事例すらある。
多様な商品開発という面では大きな貢献であるが、その後の配当実績等をみるかぎり、商品としての魅力は乏しかったと言わざるを得ないだろう。
□利差のみ配当商品のしくみ
有配当(三利源)商品は、毎年利源ごとに集計し、その合算により配当の可否を判断する。
利差のみ配当商品は、5営業年度を1の計算期間とし、通算結果で配当の可否を判断する。具体的に図表すると下表のとおりである。
いずれが有利かといえば、有配当(三利源)商品である、配当原資の太宗は「死差」によるものであり、逆ザヤに苦しむ時期も、「死差益」と「費差益」は確保するものの、「利差損」をカバーすることができていなかった。
この記事へのコメントはありません。