岡本英夫のFPウオッチャーだより 第32回 卒業したがん診療連携拠点病院での相談業務 ~介護保険第2号被保険者の「末期がん」の介護認定~

マイアドバイザー® 顧問 岡本英夫 (オカモト ヒデオ)さん による月1回の連載コラムです。
ファイナンシャル・アドバイザー(近代セールス社;2022年春号以降休刊)の初代編集長として、同誌でも寄稿されていたエッセイの続編的な意味合いのあるコラムとなります。

岡本英夫のFPウオッチャーだより、今回は第32回目です。

岡本 英夫 ⇒ プロフィール

がん診療拠点病院でのがん罹患者とその家族からの相談では、がんという病であるためアドバイス内容に本人が納得されて手続きに着手されても、時間がかかり生前の給付が間に合わないことがあった。もう少し早く相談されていたらとも思うのだが、残念至極であった。

公的給付は申請して、審査に通らないともらえない

「NPO法人がんと暮らしを考える会」では、FPと社会保険労務士がペアで相談に応じていたが、末期がんと思しき相談者の場合、相続や残される家族の生活費、障害年金や遺族年金、そして公的介護保険についても対応していた。ところが、障害年金もそうだが、介護保険も手続きに時間がかかり、生前に給付が受けられないことがあった。

障害年金の場合は、年金事務所に申請してから結果が出るまで3か月以上かかるのが普通で、申請後も提出書類の訂正等を求められるケースもあり、受給が確定し年金証書が届いたときには、すでに相談者が亡くなっていて、相談に応じた社会保険労務士ががっかりして、愚痴をこぼしたケースが何回かあった。

介護保険の第2号被保険者の「末期がん」

2001年4月にスタートした公的介護保険の第2号被保険者(40歳~64歳)は、「加齢に伴う疾病(特定疾病)が原因」で要介護・要支援状態になった場合にサービスを受けられる。この「特定疾病」に「末期がん」が加わったのは2010年からで、筆者ががん診療拠点病院で相談を開始した2013年時点では、一般的にはあまり知られていなかった。

2014年頃だったか、末期がんの患者さんで、家族が家で療養させたいというので、介護保険の申請をアドバイスした。介護保険のサービスが受けられれば、介護ベッド等のレンタル、訪問介護等が受けられ、住み慣れた自宅に戻って過ごすことが可能で、家族の負担も軽減できる。ただし早めの申請が必要である。

介護保険の介護認定だが、申請すると、市区町村の認定調査を受け、ケアプランを作成し、それに基づき必要なサービスが受けられるしくみだが、申請からサービスを受けるまで1か月以上かかる。このため、サービスを受けられるようになったときには、申請者はすでに死亡していた。申請に関わったケアマネージャーともどもがっかりである。

その当時、こういったケースが多発しており、厚生労働省からは、末期がんの場合は、暫定ケアプランを作成しサービスを提供するなど、迅速に対応するよう、各市区町村に通知が出されていた。

2024年5月31日の厚生労働省の事務連絡

こうした通知にもかかわらず事態が改善しないことから、厚生労働省は、がん患者のうち急速に病状が変化する患者に対して、要介護認定の手続きや速やかな介護サービスの開始について特段の配慮が求められるとし、本年5月31日、以下の項目について具体的な取扱いを整理し、事務連絡を行った。

<事務連絡の内容>
1 迅速なサービス提供の開始に向けた暫定ケアプランの作成等について
 ・要介護認定の申請を受けた後、認定結果が出る前の段階であっても、暫定ケアプランを作成して、介護サービスの提供を開始する
2 迅速な要介護認定の実施について
 ・申請者が入院中の場合、オンラインによる認定調査を実施できる
 ・主治医意見書の様式に定められた項目のうち、一部のみを記載したものでも提出・受理可能
 ・一次判定ソフトを用い、一時判定結果を介護支援専門員に共有し、暫定ケアプランの更新等に活用
 ・急激な心身の状況の変化に対応するため、必要に応じて実施する など
3 介護認定審査会の柔軟な運用について
 ・合議体の構成(3名でも可能)や開催方法(オンラインまたは持ち回り)に関する柔軟な対応により、緊急で要介護認定が必要となる患者に対応する
4 医療機関における適切な対応について
 ・介護保険サービスが利用できること等についてがん等の患者に案内する など
5 福祉用具貸与の取扱いについて
 ・要支援および要介護1の患者であっても福祉用具を貸与できる など

実際に、国立がん研究センターが2022年に行った「がん患者の療養生活の最終段階における実態把握事業」の調査報告書(遺族調査)では、以下のような結果が明らかになっている。
 ・死亡前6か月間に介護保険を「1回も利用したことがない」と回答した20,807名のうち、4,849名(23.3%)が「申請したが利用できなかった」、1,565名(7.5%)が「介護保険を知らなかった」
 ・「申請したが利用できなかった」と回答した人のうち約半数(49.8%、2,413名)が「介護認定に必要な調査を受ける前に患者が亡くなった」

以上だが、この事務連絡の存在を知っていることがポイントになると思う。

 

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