【2011年 第7回】 健康保険がないと大変 ~ウチの家計簿、武士の家計簿~
西谷 由美子(ニシタニユミコ)⇒ プロフィール
お医者様には診察をなかなか頼めないあの頃。もし病気になったら?
TVドラマ「Jin~仁」
6月でTVドラマ「Jin~仁」が終わり、視聴者仲間と「最終回、泣けたよね~」と話が盛り上がりました。南方仁先生が戻ってきた現在は、元の世界とちょっと違ってて、公的医療保険が発達し患者負担がほぼゼロの世界・・・坂本龍馬さんが頑張ってくれたおかげですね。船中八策のなかに「保険」が入るなんて思ってもみませんでした。羨ましいパラレルワールドではあります。
さて、私たちの年代は「シャボン玉ホリデー」でしたっけ、長屋の親子のやり取り
「おとっつあん、ごはんですよ」(娘、病気の父におかゆを持ってくる)
「苦労をかけてすまないねぇ」(父、申し訳なさそうに受け取る)
「それは言わない約束でしょ」
のコントで思い出される「江戸時代は今のように健康保険がないので、高額な医療費が負担できず庶民は医者にかかることが困難」が、しっかりと頭に刷り込まれております。
江戸時代の医療費事情
武士の家計簿の猪山家でも成之君が天然痘にかかった時、大事なご長男のために銭2625文を負担したとの記録があるそうです。内訳の詳細は書かれていなかったのですが、3人のお医者さんが合計5回の往診、神社に御祈祷を依頼、たらこ、ナシ、ミカン、それに木製の匙を購入しての病人食。それを現在の金額に換算すると約12万5千円。
18日間の闘病の間に、この金額です。結構重い負担ですよね。半分が医療費で今みたいに3割負担だと8万1250円。あ、成之君幼少のみぎりの出来事ですので、小・中学生の医療費補助、というものもありますね。また、入院していたら民間医療保険で保険金を受け取ることもあるでしょうし。本格的に加持祈祷をお願いする現代人は少ないでしょうから、多くて4~5万の出費で済むかもしれません。現代の医療制度のありがたさがしみじみとわかります。
歴史読み物などでは、現代のように国家資格ではないので(患者が来るかどうかは別として)誰でも医者は名乗れ、1回の診察料を1~2分要求することが可能。町医者に比べ、御殿医は一般の町人の診察には4両を請求したそうです。1分=1/4両=400文。ひえ~、7万5千円と120万円ですか?
これはたまらん、娘が身売りでもしないと名医と名高い御殿医にはかかれない、腕の良い町医者も無理、、、ではせめて売薬でも、と考えるのは庶民の習い。薬代に関しては・・・
咳止め、熱さましなどの薬が一服8文約380円、膏薬類が一貼16文760円。
これは盛岡藩の例。同藩では適正な金額を公に定めていた記録が残っているそうです。
そうそう、今でも健康食品として名高い朝鮮人参は1斤(600グラム)で約1000万円という話も聞きました。風邪薬など3日分位の量の薬がひと箱で千円未満、というのがマツキヨ感覚。売薬もやはり高価な感じがしますね。やはり江戸時代に重い病気になるというのは大変なことのようです。
今も昔も変わらない人間の営み
で、資料を見ているときに、見つけてしまったのですが、、、現代では「モンスター・ペイシェント」なるものの出現が言われていますが、江戸の時代にも医療費踏み倒しはあったようです。江戸初期の京都では京都所司代が治療に対して謝礼を払わない行為を非難し、親類知人らが建て替えさせられたり、お上による家財没収で支払いに充てた、という記録が(徳川禁令考巻51京都諸法度より)。おんなじだねぇ。
大事な人の病気に一喜一憂、良い医者を探して、高い医療費の支払いに頭を悩ます、人間の営みには今も昔も変わりはないようです。
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