為替デリバティブの活用法【2011年 第3回】

【2011年 第3回】 為替デリバティブの活用法 ~資産運用に必要な今どきの経済知識~

有田 宏 (アリタ ヒロシ)⇒ プロフィール

 

良薬は上手に使えば病を治します。しかし、使い方を誤ると命を失うことにもなります。本来はリスクを回避するためのデリバティブ。致命的な大怪我を負わないためには……。

 

 

 

ある製造業の場合

ある製造業を考えてみます。製品1個あたりの製造原価の内訳は以下の通り。為替レートは1ドル100円とします。

輸入原材料  100ドル
(円換算では100ドル×100円=10,000円)
日本での製造費及び管理費  8,000円
費用合計    18,000円
売価      20,000円
製品1個当たりの営業利益
20,000円-18,000円=2,000円

もし為替レートが大幅にドル高(円安)に振れると損失が発生する恐れがあります。そこで損失を回避するために為替先物を組みました。為替レートの変動に よる損益を先物取引による損益で相殺します。これで、為替レートがどのように変動しても営業利益は一定するはずです(表1)。

 

 

このようなシナリオが成り立つためには、“他の事情に変化が無い”という条件が必要です。しかし為替レートが大きく変動するような場合“他の事情に変化が無い”という前提はあまり現実的なものではありません。

ここで同業他社が為替レート変動による費用の増減を売価に反映させたとします。たとえば20円ドル安(円高)になれば、売価を2,000円引き下げることとなります。他社が価格を引き下げれば同調しないわけにはいきません。その場合の結果は(表2)を見てください。

 

 

商品の価格が変動した場合、利益を安定させるために組んだせっかくの為替先物取引が、逆に利益を不安定にしてしまいます。デリバティブ取引で市場リスク を回避する場合、自社の損益構造などのミクロ面ばかりではなく、為替変動がもたらす経済全体への影響を考慮したマクロ面の検討も必要です。

リスク回避

先物取引では為替がどのように変動しても従う義務が有ります。一方ドルコールオプションの買いは、都合の良い時だけ権利を行使し、悪ければ権利を放棄し デリバティブ取引はなかったものとすることが出来ます。リスク回避のためには、当初支払うオプション料にもよりますが、オプションの買いの方が使いやすいでしょう。

ただし、間違ってもコールにせよプットにせよ危険なオプションの売りには手を付けてはなりません。想像を絶する巨額の損失を抱えることもあります。オプ ションの売りは充分な資産のある“金融のプロ専用”の商品と考えてください。リーマンショックのように金融のプロでも致命的な失敗を犯します。

長引く円高で為替デリバティブで大きな損失を抱えてしまった企業もあります。
①デリバティブ商品の内容をどの程度理解しているのか。
②自社の関係する市場をどの程度分析しているのか。
③投機目的で使わない。

この3点さえ心得ておけば、本来リスクを回避するためにあるデリバティブで大怪我をする事は有りません。もし金融機関から勧められたとしたら、デリバティブに詳しい専門家のアドバイスを受けてください。
良薬は上手に使えば病を治します。しかし、使い方を誤ると命を失うことにもなります。

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