【2011年 第10回】 介護施設を選ぶ② 有料老人ホーム ~実録介護保険~
浅川 陽子(アサカワ ヨウコ)⇒ プロフィール
――「老人福祉法」改正で、前払い金の返還ルール等が明示化されます――
私の両親は今年2月に、有料老人ホームに入居しました。入居当時の介護度は、父が要介護3、脳出血で入院、退院しそのまま入居した母が要介護2でした。母が、脳出血のリハビリ病院に転院した時点で、入院期間が60日と期限を切られていたので、退院と同時に入所できるホームをさがさなければなりませんでした。父母2人となると、「特別老人養護ホーム」はほぼ無理と考え、有料老人ホームを探すことにしました。
両親のホーム探しの条件は、母の糖尿病が重く、退院後はインシュリン注射を1日5本打つ必要があり、まずは看護師さんに毎日インシュリン注射を打ってもらえるか、さらに有料老人ホームですから、入居金ならびに毎月の費用が賄っていけるかどうか、そして、できるだけ私がホームに足繁く通えるように私の家からあまり遠くないという、3つの条件です。
病院のソーシャルワーカーやケアマネージャーにも相談し、また以前に購入していた雑誌「ダイヤモンド・介護特集」の老人ホーム情報を基に、3ヶ所の老人ホームへ見学に行きました。最終的には、実家の近所で5年前に開設された老人ホームに、運よく同じフロアに2室空きがあり、入居を決めました。
<有料老人ホームという選択>
「有料老人ホームに入居する」といえば、かつては家1軒分を購入するぐらいの高額な入居金が必要でしたが、今はかなり状況が変わってきました。都内の一等地や高級住宅街に建つ「老人ホーム」はさすがに高額な入居金が必要ですが、郊外にある老人ホームですと入居一時金1,000万円以下が主流になっています。
ただし、入居金は安くなりましたが、その一方で、入居後の毎月の費用は注意が必要です。年金で賄える範囲の金額ならよいですが、賄えない金額なら、貯蓄を取り崩していかなければなりませんから、お金が底をつかないかどうかの計画が必要になります。
費用面で心配がなく、気に入ったホームに空室さえあればすぐ入居できるのが、有料老人ホームです。
<入居までの一般的な流れ>
①見学・・・ ホームの責任者等から説明を受ける
②申込・・・ 健康診断書等の書類が必要
③入居審査のための面談
④入居審査
⑤契約
⑥入居
ホームを選ぶ場合、複数のホームを見学して選びたいところですが、いくつかのホームを見学しているうちに、最初の方で気に入っていたホームの空室がうまってしまうこともありますので、ある程度気に入った場合は、「仮申込み」ができればしておいたほうがよいでしょう。
正式に申込をするときは、健康診断書が必要になるので、その前に健康診断も受ける必要があります。入居審査のための面談は、入居希望者が共同生活を送るのに支障がないかどうかをみるものです。入居が許可されれば、正式契約を行い、入居金等の支払いを済ませたところで、入居になります。①~⑥の流れで通常は1ヶ月~1ヶ月半程度かかると考えておくとよいでしょう。
<有料老人ホームを選ぶポイント>
チェックポイントは①「重要事項説明書」の配布、説明があるか、②設備(居室、トイレ、浴室)の状況や掃除が行き届いているか、③入居者の表情、④介護スタッフの雰囲気、⑤施設長やケアマネ―ジャーの印象、⑥要介護者に対する職員の配置比率(最低基準は3対1)、⑦入居率(低いのは問題)、です。
ホームで医療ケアを受ける必要がある場合は、医療体制(看護師の数、医療ケアの内容、提携病院、医師の情報)、ターミナルケアの有無等も必ず確認します。見学は契約までに数回行いましょう。また、体験入居が可能なホームもあります。
<有料老人ホームの料金体系―複数の選択肢も>
多くの有料老人ホームは入居時に入居一時金が必要です。
一方、入居後の毎月の費用(食費込)は20万円前後が多く、さらに介護度にあわせて介護保険の自己負担金が必要で、合計すると23万円程度になります。最近は、入居一時金をゼロまたは安くして、毎月の費用をその分割高にするという選択肢のあるホームもふえてきました。
例:①入居金800万円 費用月額20万円
②入居金400万円 費用月額27万円
③入居金 0円 費用月額35万円
また、毎月の費用が安く設定されている場合、オプションで費用請求される項目が多く結果的には20万円を超えるといったケースもあるので注意が必要です。毎月の費用の中に、どんなサービスが含まれるかどうかをチェックしておきましょう。
<「入居金」の償却方法>
入居金が必要な場合は「入居金」の償却方法について確認しておきましょう。「償却」とはホームが入居金を収入として回収するもので、償却期間5年なら5年後に退去すると入居金の返還はありません。入居時に一部(介護型は3割程度)を即時償却し、残金を一定期間(5~7年)で償却するケースが多いようですが、ホームによっては入居時の初期償却の金額が多い所もあります。
例:入居金800万円、入居時に240万円を、残金を5年間で均等償却の場合
2年で退去の返還金は (800万-240万)÷5年×(5年-2年)=336万円
<改正「老人福祉法」が来年4月から施行に>
来年4月に施行される「老人福祉法」では、「家賃、敷金、および介護などその他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として受領する費用を除くほか、権利金その他の金品を受領してはならない」という条項が設けられました。有料老人ホームを運営する事業者が、入居前に前払金(一時入居金)を受け取る場合は、その費用の内訳や算定基準、想定居住期間以前に退去した場合の返還金額算定方法(償却方法)を明示しなければならなくなります。
最近は、特に短期間で退去した場合、「返還金がない」、「返還金が少なすぎる」といった相談が消費生活相談センターに多数寄せられ問題になっていました。改正「老人福祉法」では、事業者が前払金を受け取る場合、入居後90日以内に契約を解除された時は、解除日までの家賃やサービス料等を日割計算して前払金から控除した金額を、返還しなくてはならなくなり、入居時に一定金額を即時に償却することはできなくなります。
<親の施設を選ぶには>
自分の「終のすみか」を選ぶ場合は、じっくり時間をかけ自分のライススタイルにあったものを選ぶことができますが、親の施設を選ぶ場合は、「介護が必要な状態で退院させられることになり行き場が必要」、「家族が介護できなくなった」等、切羽つまった状況も多いものです。
施設に入居する場合、親の年金で毎月の費用を賄えればよいですが、不足分を貯蓄で取り崩す場合は何年もつか心配になります。足りない場合は子が負担するか、親が住んでいた家等の資産を売却できるか、お金のプランニングが必要です。そのためには、親の資産や年金等の収入に関する情報を子が把握しておくことが重要です。現在、介護保険の自己負担は1割ですが、医療費も含め将来の負担増の可能性も考慮すべきでしょう。
有料老人ホームは「人生最後の大きな買い物」と言われます。いったん、入居すると、そう簡単に退去はむずかしいですから、必要な情報をしっかり入手し検討しましょう。
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