住宅ローンは銀行の命綱【2011年 第1回】

【2011年 第1回】 住宅ローンは銀行の命綱 ~住宅ローン~

奥田智典(オクダトモノリ) ⇒プロフィール

今や住宅ローンは銀行にとって花形商品。その背景にあるものは何なのか。今回はちょっと視点を変え、住宅ローンと銀行経営について考えてみましょう。

こんにちは。昨年の「生命保険」コラムに引き続き、今年度は「住宅ローン」コラムを担当することとなりました、ファイナンシャルプランナーの奥田知典です。今月から合計12回、住宅ローンに関する様々なお話をしていきます。どうぞよろしくお付き合いください。

■住宅ローンは銀行の命綱

それにしてもこの数年で、住宅ローンセンターが増えたと思いませんか?私は岡山県岡山市という地方都市に住んでいますが、信号待ちなどふと気付くたびに住宅ローンセンターの看板を目にします。

新聞広告、インターネット広告でも住宅ローンの文字を見ない日はありません。各銀行があの手この手でお客様を集めようと努力しています。まさに住宅ローン販売戦争といっても過言ではありません。いったいなぜ銀行はここまで住宅ローンに注力するのでしょう。

それは、住宅ローンが銀行の命綱だからです。

住宅ローンの例

ひとつ実例を紹介しましょう。このたび新築住宅を購入することになったAさん。住宅営業マンからおすすめされた銀行で、3年固定金利ローンを借りることになりました。以下はそのときの会話です。

銀行員「このローンでは全期間優遇金利が適用できますが、その金利の幅は当行(なぜか銀行員は自社のことを自社といわず当行といいます)との取引ポイントで決定されます。」

Aさん「取引ポイントってなんですか?」

銀行員「給与振込、投資信託など資産運用、カードローン、公共料金引落といった取引ごとにポイントが貯まるものです。優遇金利の幅を増やすために、今回の住宅ローン申し込みと同時に、カードローンもお造りいただきますね。」

Aさん「え、カードローンなんかいらないですよ。それに、給与振込の口座を変えるのは大変だし、どうしても変えなきゃいけませんか?」

銀行員「当行で住宅ローンをお借りいただくには、給与振込口座を当行に変更していただく必要があります。カードローンも優遇金利を付けるために必要です。なあに大丈夫。使わずに置いておけばいいだけですよ。初年度手数料無料ですし。」

いかがですか?こんな話、どこかで聞いたことありませんか?

 

銀行に利用者の情報を丸裸にされる住宅ローン

住宅ローンは、銀行にとっては取引を自社にまとめてもらえる最大のチャンスです。「マイホーム実現のためにお金を貸してあげるのだから、いうこと聞いて取 引をまとめなさい」と言わんばかりの営業をここぞとばかりに仕掛けてきます。特に給与振込を獲得すると、毎月の入金をチェックできますから、お金の流れが丸裸になります。要はお財布を握って、ローン利用者の首根っこを掴むということですね。

考えてみれば住宅ローンを申し込む際、年収、家族構成、勤務先といった情報をほぼすべて提供する必要があります。住宅ローン以外の過去の借入の状況も調べられます。これでほとんどの情報が丸裸になります。それらの情報をもとに、あとはタイミング良く金融商品をセールスするのみですね。銀行にとってとても有利な商売です。

そして住宅ローンが命綱たる最たる理由。それは、銀行にとってほぼノーリスクでお金が貸せ、そして儲かるということ。

まず土地建物を担保にとり、さらには保証会社を間に入れることにより、万一返済されない時でも確実にローンを回収できます。そして長期間にわたって金利(銀行にとっての利息)収入が得られます。

保証会社といっても連帯保証してくれる訳ではなく、あくまで一時的に「立て替えて」払うだけであり、その後は銀行に代わって借金返済を迫るだけ。残念ながら返せない時は土地建物を処分し、借りた人は最悪の場合家を失い、借金だけ残ることになります。

これだけ銀行にとって有利で安全確実なシステムを持つ貸出は、住宅ローン以外にはありません。諸費用は全部借主負担。事務手数料だって払ってもらえます (一体なんの事務に対する手数料なのか、未だ謎ですが…)。ここに3年固定ローンなどの変動金利ローンを組み合わせれば、金利上昇リスクすら負わなくてもよい、無敵の収益モデルが完成します。

ここまで書けば、なぜ銀行が住宅ローンに力を注ぐのか、もうおわかりですね。ここ最近の競争激化で、さすがに昔ほどは儲けられないようですが、それでも絶対に外せない商品です。なにより「お金を貸してもらった」ありがたみは、ローンが完済されるまではずっと生き続けます。事実、銀行に気兼ねして借り換えをしないでいる人もいますからね。まさに首根っこを捕まえた状態といえます。

企業向け貸出は政府や自治体の制度融資に任せ、自分たちはより安全で確実に儲かる住宅ローンに注力するというのが多くの銀行の偽らざる実態です。

政府の経済対策の影響もあり、昨年は住宅金融支援機構の全期間固定金利ローン「フラット35S」の取扱いが大幅に増えました。しかし民間銀行の多くは相変わらず3年固定や変動金利ローンが主力商品です。保証も担保もガチガチに固めているわけですから、せめて金利上昇リスクぐらいは背負う覚悟がほしいと思いますが、皆さんはどのように思われますか。

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