商品先物市場の機能(1)~「価格変動リスクのヘッジ機能」の補完的機能~【2011年 第11回】

【2011年 第11回】 商品先物市場の機能(1)~「価格変動リスクのヘッジ機能」の補完的機能~ 投資コラム

三次 理加(ミツギ リカ) ⇒プロフィール

今回は、前回説明した「価格変動リスクのヘッジ機能」の補完的な機能について説明します。
補完的機能としては、「換金・金融機関機能」「実物取得機能」「在庫調整機能」の3つがあります。

 

 

 

 

①-1 「換金・金融機関機能」

手元にある商品を商品先物市場で売却し、換金することができます。
また、米国では、農場経営者や穀物取扱業者などが穀物価格の変動リスクを商品先物市場でヘッジしている場合、銀行が、その在庫の一定割合までの融資条件を緩和することがあるそうです。これは「ヘッジしていない商品在庫は投機」(引用:『商品先物取引の基礎知識』木原大輔/著、時事通信社)という考えからくるようです。ただし、これは企業と銀行との相対契約の話であり、そのための法律や制度があるわけではありません。

なお、2011年8月より、我が国ではおよそ72年ぶりにコメの先物取引が上場(試験上場)されました。明確で即時性の高い価格指標があれば、在庫の適正な資産評価が可能となります。そのため、コメ在庫を担保に、金融機関から借り入れ(=動産担保融資)を行うことができるようになる可能性があるといえます。

①-2 「実物取得機能」

商品先物市場を利用して、商品現物を取得することができます。たとえば、金や白金(=プラチナ)などを一般小売価格より割安な価格で購入することができます。ただし、ブランド(銘柄)の指定はできません。

また、石油製品を利用する業者の場合、商品先物市場を利用してガソリン、灯油、軽油等石油製品の現物を取得することができます。系列卸価格よりも仕入れ価格を安く抑えたい場合(注1)、原油価格の変動に左右されず、定期的に安定した価格で仕入れたい場合、将来の仕入れ価格を現在の価格に固定したい場合などに利用できます。取引所を介した取引となるため取引先の与信を判断する必要性がなく、また、受渡しされる石油製品は、JIS規格に適合したものであるため品質に対する心配もありません。

注1:近年、東京工業品取引所期近の納会値段(取引最終日の値段)と系列卸価格の月間平均価格との価格差は縮小傾向にあるため、必ずしも安く仕入れられるとは限らない。また、通常、元売りからの仕入れ時期と先物市場で現受けする時期は異なるため、先物市場で買った時点においては、安いか否かの判断はできない。

ちなみに、東京工業品取引所の石油市場では、上場来10年以上にわたり、石油業者により活発な現物の受渡しが行われており、過去に39都道府県において受渡実績があります。ただし、石油製品の受渡しは利用資格があるため、事前に確認するようにしましょう。

なお、これまで説明してきたように、商品先物取引は証拠金制度を採用しています。そのため、買い注文が成立した時点では総代金は必要ありません。決済期限がくるまでの間、総代金の一部を運用することもできるため、資金を効率よく活用することができます。

①-3 「在庫調整機能」

ヘッジ取引の考え方を応用すれば、一定の条件の下に、今ある商品在庫を調整することが可能です。たとえば、現在保管している商品を売却すると同時に、先物市場で将来、同量の商品を購入する契約をします。こうすれば、倉庫料を削減することができます。さらに、売却代金の一部については金利収入を得ることも可能となります。

コメの卸売業者を例にとってみましょう。コメの卸売業者は、収穫時期に新米を仕入れ、その在庫を管理しつつ1年かけて小売業者に販売します。たとえば、あらかじめ在庫の一部を先物市場で買っておき、需要期に必要量だけの現物を受け取ることにより決済するとします(=受渡決済する)。こうすれば、保管コストを削減できるほか、品質劣化・毀損リスク、売れ残りリスクを回避することが可能となります。

次回はいよいよ最終回。「資産運用機能」「透明で公正な価格の形成・発信機能」について説明します。

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