相続・贈与のエトセトラ⑥~相続放棄はいつまでにやればいいの?~【2011年 第6回】

【2011年 第6回】 相続・贈与のエトセトラ⑥ ~相続放棄はいつまでにやればいいの?~

平川すみこ(ヒラカワ スミコ) ⇒プロフィール

このコラムでは、相続と贈与に関して知っておきたい話題をあれこれお伝えします。 前回は行方不明になっていらっしゃる方と相続との関係についてとりあげました。「認定死亡」や「失踪宣告」を受けた方は死亡したものとして取り扱われますので、相続が開始しますが、多額の借金が残されていた場合はどうしたらいいでしょうか?

借金も相続財産です。民法第896条に『相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する』と規定されているように、相続人が非相続人(亡くなった方)の借金を引き継いで返済していかなければいけません。
少しの借金ならなんとかなっても、多額となると相続人には大きな負担が生じてしまいます。

そこで、民法では、相続を承認するか、限定で承認するか、放棄するかを相続人が選択していいとしています。
相続を放棄すると、“はじめから相続人ではなかった”ことになり、プラスの財産も相続しませんが、借金というマイナスの財産も一切相続する必要はありません。
相続放棄の話は2010年のコラム「今日の相続空模様」の第3回でも書いていますので、参考にしていただけると幸いです。

■相続放棄の手続きはいつまで?

相続を放棄するためには被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述する必要があります。遠方の場合等には郵送での申述も可能です。期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内です。この期間のことを熟慮期間といいます。

とはいえ、3ヶ月というのはあっという間です。この熟慮期間内に相続人が借金をしていなかったかどうか相続財産の状況を調査するのが困難で、承認するか放棄するかを決められない場合がでてきます。その場合には、家庭裁判所に申立てすることで、この3ヶ月の熟慮期間をさらに伸長することができることになっています。伸長期間は、具体的事案に応じて相続財産の調査等のために必要と認められる期間を判断して家庭裁判所の裁量によって定められますが、概ね3ヶ月の伸長となることが多いようです。

ただし、熟慮期間伸長の申立ては、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要がありますので、ご注意ください。

■熟慮期間の起算日は?

被相続人の死亡日ではなく、あくまでも「自己のために相続の開始があったことを知った時」になります。亡くなったことを知ったのが死亡日から数週間経っていたというような場合もありますよね。ですから、自分が相続人になることがわかった時から熟慮期間がスタートします。そして、3ヶ月の熟慮期間の間に、限定承認も相続放棄もしなければ、また、上述の期間伸長の申し立てもしなければ、単純承認したこととなります。

では、何もせず熟慮期間を過ぎてしまったら、もう相続放棄はできないのでしょうか?
財産は何もない、ましてや借金があるなんて思ってなかったから何もしなかったのに・・・後になって借金の存在を知り、不測の事態にあわててしまう、といったこともありえますよね。

そこで、相続財産が全くないと信じ、かつそのように信じたことに相当な理由があるときなどは、「相続財産の全部又は一部の存在を認識したとき」を起算日としてそこから3か月以内に申述すれば、相続放棄の申述が受理されることもあります。

ただし、すでに相続財産を処分しているような場合は、それで単純承認したものとみなされますので、それから借金の存在を知ったとしても相続放棄をすることはできなくなってしまうことに注意が必要です。

■他の相続人への配慮も忘れずに!そしてまずは専門家へ相談を!

自分が相続人なることがわかった場合、まずうかつに相続財産には手をつけないようにします。そして被相続人の相続財産、特に借金と保証債務がないかどうかを調べましょう。3ヶ月以内に調査できないような場合は、家庭裁判所に期間伸長の申立てを検討してください。相続するプラスの財産がなければ、念のために相続放棄の申述をしてしまうという方法もあります。

 相続放棄の申述や、期間伸長の申立てはご自身ですることができます。しかしながら、短期間のうちに相続財産を調査したり、放棄するかどうかを検討したりということは、なかなか困難です。そうこうしているうちに熟慮期間が過ぎてしまった!ということもありえます。

また、熟慮期間を経過して借金の存在がわかったけれど、どのように相続放棄の申述書を書いていいかわからない、ということもあるでしょう。

さらに、自分が相続放棄をしたために、他の相続人に迷惑をかけてしまうということもあります。相続放棄は他に共同相続人がいても、単独で申述ができます。ただし、相続放棄した方がいてもそれを家庭裁判所が他の相続人に通知したりするわけではありません。つまり、他の共同相続人は知らないうちに放棄した者の債務まで負担することになってしまうのです。

なお、同順位の相続人全員が相続放棄をすると、後順位の者が相続人となります。例えば、第1順位である子どもたちがみな相続放棄をすると、第1順位がいなくなるので、第2順位の父母(直系尊属)が相続人となります。後順位の者が相続人になったとしても、被相続人の借金を引き継げないのであれば、やはり自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内相続放棄をする必要があります。 

特に借金がある場合の相続放棄は、他の相続人(および後順位で相続人になるであろう人)との連携が大切になってくるといえるでしょう。
ですので、ご自身の独断で動かれる前に、あるいは何もせずに悪戯に時間が過ぎていってしまう前に、なるべく早い段階で相続の専門家に相談をすることが望まれます。

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