【2014年 第2回】がんになったらかかるお金とかけるお金
– がんと共に生きていくためのお金のアドバイス
川崎 由華 (カワサキ ユカ)
一般社団法人がんライフアドバイザー協会/代表理事
治療費のこと、収入のこと、家族の生活のこと…がんサバイバー(※1)の方だからこそ、がんと共に生きていくからこそのお金の悩みはあるでしょう。経済面の解決は、がん治療に前向きになれたり、仕事を無理なく続けられたり、家族とうまく関われたりといった精神面への解決にも繋がります。がんに打ち克つといった身体面への解決に繋がる可能性もあるでしょう。
こちらの連載コラムでは、がんサバイバーの方が直面するお金の悩みに対して、アドバイスを綴っていきます。
「かかるお金」と「かけるお金」に分けてチェックする
「かかるお金」と「かけるお金」に分けてチェックする
がんと診断されたら、支出することになるお金を「かかるお金」と「かけるお金」の2つに分けて考え、整理してみましょう。
「かかるお金」は、がんを治すだけでなく、がん治療に伴う副作用や合併症の治療、その後の体のケアで必ず必要となるお金のこと。
「かけるお金」は、医師から勧められるがん治療以外で、率先して自身の意思で行いたいと思う治療やケア、環境作りのためのお金のこと。
このように2つを定義づけると、がんになった時に「かかるお金」と「かけるお金」は図表1のように振り分けられると私は考えます。
図表1 がんになったらかかるお金とかけるお金
定義に基づき図表1のように振り分けたものの、環境や価値観によって「かけるお金」の中には「かかるお金」と判断されるものもあるのではないでしょうか。
例えば、乳房再建の費用。
この乳房再建の費用は、定義に基づくと「かけるお金」に振り分けられますが、これからの自分に必要なものとして「かかるお金」に入れておきたい女性が多いのではないかと思います。
がん診断給付金で受け取れる100万円をどのように活用していけばいいのかを考えていくにあたり、まず自分にとって「かかるお金」なのかと「かけるお金」なのかに分けて、今後がんと付き合っていくためのお金を列挙してみましょう。
まずこれからの治療費の目安を知っておく。
次に「かかるお金」は、おおよそどのくらいの金額なのかを調べます。
まずは何より大切な治療にかかるお金です。
Aさんのように、まだ手術後の治療方針が決まっていない場合は、今後のインフィームドコンセントの際にその治療にかかる費用の目安も尋ねてみましょう。
乳がんの治療は、比較的早期発見であっても、手術で切除した後に再発予防のための抗がん剤治療または放射線治療、ホルモン療法を行うケースもあり、長期的な治療費を知っておく必要があります。
実際、費用を確認しないまま抗がん剤治療を受け、たった注射一本にも関わらず会計の時に請求された額が数万円と高額で、これからの治療費に不安を覚えた方は少なくありません。
保険適用内の治療費は、高額療養費制度や、自身が加入している健康保険組合の独自の制度を利用して、毎月の自己負担額がいくらになるのかで考えます。
制度については少し難しいと思われるかもしれませんが、院内のソーシャルワーカーの方に尋ねてみてもいいでしょうし、自分自身でwebサイト「がん制度ドック」(※2)で調べることもできます。
抗体医薬品(※3)による治療は、高額療養費制度を利用したとしても高額になりますが、もし医師から提案された場合には、あなたのがんの性格に適した非常に効果の高い治療だと判断されたからでしょう。
治療費だけでがん診断給付金の100万円をほぼ全額使うことになるかもしれませんが、がんを治していくためには最優先させるお金だとも言えます。
また乳房再建の費用は、乳房を切除する喪失感ははかり知れず、手術で再建することを切望する多くの患者さんの声で、人工乳房の乳房再建術は治療の一環とみなされ、晴れて2013年7月より条件を満たせばインプラント使用でも保険適用となっています。
これまで1つの乳房で100万円前後かかり、治療費で高額な支出をした後での費用としては、かなり負担の大きなものでしたが、保険適用となることで自己負担額は3割、さらに高額療養費制度を利用することでもっと自己負担額は少なくて済むようになりました。
乳房切除と同時に再建も可能であれば、一度の手術となって経済的負担もより軽くなるので、担当医師に相談されてみてもいいかもしれません。
その他「かかるお金」としては、治療後の検査通院にかかる交通費や検査費用、術後のケアとしてリンパ浮腫の予防のための専用下着などがあり、長期的に必ず必要なお金もあることを忘れてはいけません。
このように「かかるお金」を優先し、そのあとに「かけるお金」にどのくらい支出できるのかを見ていきましょう。
あなたらしく生きるためにお金を使う
「かけるお金」も決して不必要ではありません。
自分の信念に基づいて自分らしく生きていくために必要なもの、家族との関わりの中で必要なものなど、とても大切なものもあるはずです。
それぞれのライフスタイルによって必要なものを、「かかるお金」として予算立てしてみましょう。
治療によっては、あっという間にがん診断給付金の100万円を使い終える場合もあるでしょう。
がん診断給付金に限らず、あなたががんと向き合い、付き合っていくうえで納得してお金を使っていくことが、なにより大切です。
(※1)がんサバイバーとは、がんを治療した人だけではなく、がんと診断された直後から、治療中の人、またその家族、介護者も含めたがんの経験者のことです。
(※2)「がん制度ドック」http://www.ganseido.com/
(※3)抗体医薬品とは、一つの抗体が一つの標的(抗原)だけを認識する特異性を利用した医薬品で、がん細胞などの細胞表面の目印となる抗原をピンポイントで狙い撃ちするため、副作用の少ない効果的な治療薬として今後も期待されています。
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