2014年 第1回 ふたりの妻、遺族年金はどちらに? 年金ミステリー
菅野 美和子(スガノ ミワコ)⇒プロフィール
「私には関係ない」とは言えないのが年金制度です。いずれはお世話になります。今すぐ必要になるかもしれません。誰にでも関係があるにもかかわらず、実際の制度はわかりにくく、複雑怪奇です。これから6回にわたって、ミステリアスなストーリーで年金制度についてお話します。年金ミステリーで年金制度を理解していきましょう。
2年前のこと
2年前のこと、A子さんの夫Bさんは病気で亡くなりました。数か月間、懸命に治療を受けましたが、55歳のBさんは逝ってしまいました。最後までBさんとA子さんは寄り添って過ごしました。
A子さんは夫が経営していた会社のことにも、何かと気を配りました。亡くなる前は、会社のこと、夫のことと、大変な毎日でした。
夫が亡くなったあとも、A子さんにはしなければならないことが山のようにありました。自分のことはあとまわしになっていましたが、一息ついたとき、これからの生活や遺族年金のことが気になってきました。
A子さんは、10年以上、Bさんの妻として暮らしてきましたが、戸籍上の妻ではありません。Bさんには戸籍上の妻P子さんがいました。P子さんが離婚に応じなかったので、A子さんは籍を入れることができませんでした。
P子さんとの間には子どもがいましたが、すでに成人しています。
Bさんは遺言状でA子さんに財産を残してくれました。遺言状に、遺族年金はA子さんに贈ると書いてあります。
それでもA子さんは心配になり、年金事務所に相談しました。すると、戸籍上の妻がいるのであれば、遺族年金はもらえないかもしれないと言われました。
そして、P子さんがすでに遺族年金の請求をしていることもわかりました。P子さんは戸籍上の妻であり、別居中も夫から経済的な援助を受けていたとして、遺族年金を請求したのです。
A子さんにも遺族年金は必要です。
こんなとき、どうなるのでしょうか
妻がふたり。遺族年金はどちらの妻が受け取れるのでしょうか。
厚生年金保険加入中の夫が死亡したとき、夫の保険料納付状況に問題がなければ、その妻には遺族厚生年金が支給されます。ただし、遺族年金を受け取る妻にも条件があります。
その条件は「生計維持されている」こと。生計維持とは、簡単にいえばいっしょに暮らしていて、経済的にも支えあっているということです。
単身赴任や親の介護などで別居することもありますが、その間も仕送りをしているなど、夫婦としての実態があれば遺族年金の対象となります。
また、妻の収入が850万円以上あるときは原則として遺族年金の対象となりませんが、それほど収入の多い人は多くはないでしょう。
遺族年金では、法律婚を条件にはしません。事実婚でも対象となります。ただし、事実婚の場合は、住民票などで夫婦であるということを証明しなければなりません。
夫の死亡により妻が遺族年金を受け取るとき、実はこのように、いろいろな条件をクリアして受け取っているのですが、多くの場合は、意識せずとも条件を満たしています。
さて、A子さん、P子さんの場合は、遺族年金を受け取るのは誰でしょうか。
時々経済的な援助を受けていた戸籍上の妻P子さんか、いっしょに暮らしていて事実上の妻であったA子さんか。
年金制度がどちらを妻として認めるかということです。
さて、最初は戸籍上の妻であるP子さんに遺族年金の支給決定がされました。A子さんは不支給に。しかしA子さんは納得できません。
10年以上も夫と生活を共にし、夫の看病もしてきた妻なのです。葬儀も行いました。妻として認められないことがあってよいのでしょうか。
P子さんは戸籍上の妻です。確かに夫がP子さんにお金を送ったことはありました。しかし、それは子どもの進学の費用などで、P子さんの生活を援助していたわけではありません。
結果
不服申し立ての結果、最終的にはA子さんが遺族年金を受け取ることになったのです。
それはA子さんが妻であると認められたからです。夫は遺言状で遺族年金はA子さんに贈ると書いていたのですが、遺族年金は遺言で受取人を指定するべきものでありません。
A子さんのケースではA子さんが受け取ることになりましたが、戸籍上の妻、事実上の妻の争いになれば、結果はケース・バイ・ケース。A子さんと同じ結果になるとは限りません。
果てしない争いになってしまうこともあります。誰が妻であるかは、年金制度では「事実」を持って判断すると考えていいでしょう。争いになりそうであれば、日ごろから妻であるという証拠(事実)を、できるだけ用意しておくことです。
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