2014年 第4回 増やすつもりが、減った年金 年金ミステリー
菅野 美和子(スガノ ミワコ)⇒プロフィール
「年金なんて…」と若いうちは気にならなくても、老後が近づくと気になるものです。少しでも有利に年金を受け取りたいと考えます。年金額を増やす方法として本来の支給開始年齢を遅らせて受け取る「繰下げ」があります。繰下げの目的は毎年の年金額を増やすことですが、増やすつもりの繰下げで、損をしたということがあったのです。
72歳のA子さん
72歳のA子さんは年金で苦い思いをしました。
40歳のときに自営業の夫を亡くしたA子さんは、子どもがいなかったために、遺族年金をもらえませんでした。遺族年金で悔しい思いをしましたので、老後はしっかりと自分の年金を受け取って、安心して暮らしたいと思いました。
子どものいないA子さんは、ゆくゆくは高齢者向けの施設に入って暮らしたいと考えました。
ところが施設への入居費用を調べてみると、自分の年金では不足します。預貯金の取り崩しは心配なので、A子さんは、65歳以降に受け取る年金を受け取らず、繰下げすることにしました。70歳まで待てば42%の割り増しがつきます。割り増しのついた年金があれば、施設での費用をまかなえそうでした。
ただし、問題は待つ期間。65歳から70歳まで年金を受け取れません。
幸いなことに看護師の資格を持っていたA子さんは、資格を活かして働くことができたので、その給料で生活できました。そして70歳以降も仕事を続けていたA子さんは、年金は手続きが遅れてもさかのぼってもらえるから大丈夫と、71歳で手続きにいきました。
そこでA子さんは驚きました。
繰下げを請求すると、さかのぼって受け取れないというのです。すでに70歳になっているので、42%の割り増しは加算されます。しかし、請求した翌月からしか支給されないので、70歳からの約1年分の年金は受け取れないと言われました。
「そんなことは聞いてない」とA子さんは言いました。年金を請求しなくても、5年間はさかのぼって受け取れると思っていましたが、繰下げの請求の場合は異なりました。
A子さんにはふたつの選択がありました。
このまま繰下げを請求して71歳現在から年金を受け取るか、それとも繰下げをせずに本来の65歳から受け取るかです。
繰下げをしないで、65歳から通常の年金を受給する場合、すでに5年経過しているので、さかのぼれるのは5年間だけです。
どちらを選択しても1年分の年金はもらえず、損をしてしまうことになります。
年金制度に不信感を持ってしまったA子さんは、繰下げをやめて、過去5年間分の割増のつかない年金を受け取ることにしました。
元気なので、まだもう少し働けそうな気がしたからです。
繰下げの手続きが遅れて損をしたという事例は、全国で数多くありました。そのため、法改正され、70歳以降に繰下げの手続きをした場合も、70歳で請求をしたものとみなして、さかのぼって支給されるようになりました。(平成26年4月1日施行)
今後、A子さんのようなケースは救済されます。70歳にさかのぼって割り増しのついた年金を受け取ることができます。
「なぜそんなことになるの?」と言いたくなるような年金制度。複雑すぎる法律がミステリー化の原因となっているのですね。
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