未納なし、子どもあり、もらえなかった遺族年金【2014年 第6回】

2014年 第6回 未納なし、子どもあり、もらえなかった遺族年金 年金ミステリー 

菅野 美和子(スガノ ミワコ)プロフィール

 

国民年金の遺族給付である遺族基礎年金は、26年4月から妻ばかりではなく夫にも支給されるようになりました。配偶者が受け取る遺族基礎年金は「子ども」がポイント。そして保険料の納付状況も大事なポイントです。未納なし、子どもあり、それでも遺族基礎年金をもらえないことってあるのでしょうか。

国籍がオーストラリアのAさん

Aさんは、妻と幼稚園に通う子どもの3人暮らしでした。通訳や翻訳の仕事をしています。Aさんの国籍はオーストラリア。日本の大学に留学し、そのまま日本で働き、日本人の妻と結婚しました。現在はフリーで仕事をしています。

日本の生活にも慣れ、仕事も順調です。Aさんは妻や子どものために、日本で暮らすことを望んでいました。オーストラリアの両親の生活が気がかりでしたが。

Aさんは自営業ですので、国民年金に加入しています。国民年金の第1号被保険者は20歳以上60歳未満で、日本国内に住んでいる人であれば強制加入となります。国籍は関係ありません。

Aさんは卒業後、日本の企業に就職したので、厚生年金加入期間がありますが、フリーで仕事をはじめてからは、国民年金に加入しています。

日本で暮らし続けていくために、国民年金の保険料を払い続けてきました。口座振替を利用しているので、滞納することなく納付しています。

Aさんは娘の成長を楽しみにしながら、日々暮らしてきました。

ところがそんなある日、健康診断を受けたAさんは再検査通知を受け取りました。そして再検査の結果、なんと、がんであることがわかりました。

Aさんは最近、ちょっと疲れ気味かなと感じていましたが、普通に生活していました。病気に罹っているとは思いもしませんでした。病院の診断では、がんは進行しているとのことで、Aさんはすぐに治療を始めることになりました。

若いAさんの病気の進行は思いのほか早く、余命宣告を受けました。Aさんは、オーストラリアにいる両親に会っておきたいと思い、動けるうちにと、1週間ほどの予定で、家族で里帰りをすることにしました。

主治医の許可も得てオーストラリアへ行きましたが、滞在中に、Aさんの病状が急変しました。そしてまもなくAさんは亡くなりました。オーストラリアへ行って3週間目のことでした。

Aさんの妻B子さんはオーストラリアで葬儀をすませ、娘とふたり、日本へ帰ってきました。

B子さんは出産で退職したのち、専業主婦として暮らしていましたが、夫が亡くなったので、すぐに仕事を探し始めました。それと同時に遺族年金の請求もしました。

Aさんはずっと国民年金保険料を支払っています。遺族年金を受け取るための保険料納付状況についてはなんの問題もありません。

親子3人でいっしょに暮らしてきたので、遺族年金を受け取る遺族としての要件にも問題はありません。

ところが、遺族年金の請求を行った結果、「不支給」という通知が届きました。

B子さんは目を疑いました。どうして遺族年金をもらえないのでしょうか。

Aさんには日本国籍がありません。日本に居住している間は国民年金の第1号被保険者となりますが、国籍がないので、日本国外へ出た場合は、出国したときから、国民年金の被保険者でなくなります。

Aさんはそのまま海外で死亡したので、死亡したときは、国民年金の被保険者ではないことになり、遺族基礎年金が不支給となったのです。遺族基礎年金の支給要件は「国民年金の被保険者であること」となっています。

保険料を払っていましたが、本来は払えない保険料を払っていただけのことになり、保険料は返還されます。

本当は、Aさんは自分の国へ帰ったわけではなく、一時的な旅行のために日本を離れたにすぎません。日本へ戻ったのちに亡くなったのであれば、問題ありませんでした。

たまたま日本を出国したあとで亡くなったので、被保険者期間中の死亡とならず、遺族基礎年金も不支給となってしまいました。

B子さんは納得できませんでした。保険料は払っている、遺族の要件も満たしている、たまたま一時的な旅行中に死亡しただけなのに、国民年金の被保険者ではないと言えるのか、B子さんは不服申し立てを考えました。

ミステリーというより、制度の不備から生じた結果であるように思えます。日本に居住する外国籍の人が、短期間で海外旅行に行くことはありますね。その都度、国民年金の被保険者の資格を失うことになるのであれば、不合理に思えます。

 

 

 

 

※   お断り

このケースで不支給という決定が出ましたが、審査請求や裁判で争った場合も不支給となるかどうかはわかりません。年金に関しては決定に納得ができなければ不服申し立てできます。その結果、認められることもありますので、あきらめないことも大切です。

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