あまりに少ない遺族年金の不思議【2014年 第11回】

2014年 第11回 あまりに少ない遺族年金の不思議 年金ミステリー

菅野 美和子(スガノ ミワコ)プロフィール

 

A子さん(59歳)は再婚して5年目を迎え、65歳で定年退職した夫とふたり、これからは旅行にも出かけて楽しく暮らしたいと考えていました。ところが、退職直後に夫が肺がんであるとわかり、そのときにはすでに手遅れでした。半年後に夫は亡くなりました。残されたA子さんはひとりで生きていかねばなりません。その後、遺族年金の手続きをしましたが、あまりにも年金額が少ないのにA子さんは驚きました。

 

老齢厚生年金を受給中の夫が死亡した場合、残された妻は遺族厚生年金を受け取ることができます。遺族厚生年金には、妻の収入要件がありますが、850万円を超える収入のある妻は数多くないので、ほとんどの妻が対象になると考えていいでしょう。

遺族厚生年金額は、夫が受給していた老齢厚生年金の4分の3を目安にします。その額を基本として、夫の厚生年金加入期間や妻の年齢により、プラスアルファ(妻に対する加算額)がついたり、つかなかったりするというイメージです。

遺族年金は亡くなった夫の年金額の4分の3と聞いていたA子さんは、手続き後、自分自身に支給される遺族厚生年金額を知っておどろきました。年間で100万円程度です。

「100万円あればいいのでは?」と友達から言われましたが、100万円には妻に対する中高齢寡婦加算約58万円が加算されての金額です。本来の遺族厚生年金は40万円ほどという計算になります。

再婚前のことは詳しくはわかりませんが、夫は大学卒業後ずっと会社員であったと聞いていましたし、充分な給料を受け取っていました。

夫の年金がどのくらいであったか、A子さんはよくわかりませんが、再婚した後、「まだ会社で働いているから年金はもらえない」と夫は話していました。確かに月に100万円ほどの給与がありましたので、年金はストップされていたのでしょう。

A子さん夫婦は、夫がお金の管理をしていました。細かなことが苦手なA子さんは夫にまかせていました。

夫が亡くなり、これからひとりで生活していかねばなりません。A子さんはまず遺族年金の手続きをしました。充分ではないとしても、日常生活費くらいはあるだろうと思いました。ところが、遺族年金は月に10万円もありません。それどころか、65歳以降は約58万円の加算額はなくなると聞きました。

A子さんは40年以上サラリーマンとして働いてきた人の年金がそれほど少ないのかと不思議でなりません。加算なしの遺族厚生年金額が約40万円。40万円が夫の年金の4分の3であれば、夫の老齢厚生年金は50万円程度であったことになります。

A子さんはこの疑問を調べてみることにしました。すると、思いがけないことがわかりました。

夫が再婚であることや前の妻との間に子どもがいることは知っていましたが、夫は離婚するときに、年金分割をしていたのです。

前の妻は専業主婦だったようで、離婚時に50%の割合で年金の分割していたのです。分割した時点で夫の年金は少なくなりました。夫は60歳になって年金の手続きをしましたが、在職中で給与も高かったため年金は全額停止でした。全額停止となっているため、気がつきにくかったのですが、最初からかなり少ない年金額だったのです。

65歳で退職したのちは年金を受給するようになりましたが、すぐに病気がわかり、年金を疑問に思う暇もなく、亡くなってしまいました。

A子さんは再婚しましたので、夫が死亡すれば遺族年金の権利が発生することになります。遺族年金は婚姻期間の長短にはかかわらず、条件を満たした夫が死亡したとき「妻」であればよいのです。入籍して1週間目に夫が死亡したというようなケースでも対象となります。

夫が結婚前に年金分割をしていれば、遺族年金の計算は分割後の年金を基礎として計算します。2分の1に分割された年金の4分の3と考えれば、実際には分割前の4割にも満たない遺族年金額となります。

A子さんはこんなに早く夫が死亡するとは思いませんでしたが、心のどこかに、万が一のときには遺族年金が助けてくれるという気持ちはありました。

夫は、ほんとにA子さんを大切に思っていたのでしょう。実子と相続で争いが起こらないように遺言書を書いていました。また、A子さんを受取人とした保険も残してくれていました。遺族年金の少なさをわかっていて、A子さんのために考えてくれたことかもしれません。

A子さんは遺族年金が少ないことを不満に思えないなという気持ちになりました。

ところで、年金分割を受けた元妻は、別れた夫の死亡で影響を受けるでしょうか。年金分割したあとは、相手の生死にかかわらず、分割された年金を受け取ることができます。

離婚、再婚、死亡、人生の中のいろいろなできごとの中で年金も影響を受けます。不思議に、ミステリーに思えることにも理由があります。あとで困らないように、人生の節目には、年金についても確認できるといいですね。

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