投資信託の販売現場は20年前とちっとも変わっていない?【2014年 第8回】

2014年 第8回 投資信託の販売現場は20年前とちっとも変わっていない?              - 最新ニュース解説。FPとして言わせていただくと…

菱田 雅生(ヒシダ マサオ)⇒プロフィール

金融庁の調査によると、銀行や証券会社などの投資信託の販売姿勢が、顧客の資産形成のためよりも、金融機関自身の収益獲得を優先しているように見受けられるようです。筆者が証券会社にいたころもそうでしたが、20年ほど経った現在においても、そのスタンスはどうやら変わっていないようなのです。金融庁の調査によると、銀行や証券会社などの投資信託の販売姿勢が、顧客の資産形成のためよりも、金融機関自身の収益獲得を優先しているように見受けられるようです。筆者が証券会社にいたころもそうでしたが、20年ほど経った現在においても、そのスタンスはどうやら変わっていないようなのです。金融機関の担当者を通じて投資信託を購入する際は、そのような金融機関の本音ともいえる部分を理解しておくことが重要でしょう。

 

 

 

銀行における投資信託販売の姿勢

金融庁が7月4日に公表した金融モニタリングレポートによると、銀行における投資信託販売の姿勢が、長期保有を前提として顧客の資産形成をサポートしていくような販売スタンスよりも、乗り換え売買による販売手数料で収益を稼ごうとするスタンスのほうが重視されていると推測できるようです。おそらく、証券会社においても同様のことがいえるのではないかと思われます。

近年、銀行の預金残高は着実に増加しています。一方で、投資信託の残高は横ばい。それなのに、投資信託の販売額や投資信託による収益は増加が続いているようです。これは、投資信託の乗り換え売買が盛んに行われている結果が出ていると考えられるわけです。

さらに、最近の投資信託全体(公社債投資信託や私募投資信託を除く)の平均保有期間の推移を見ると、少しずつ平均保有期間が短くなってきていて、2013年度末では2.0年となっています。銀行経由の販売分だけで見ても、主要行等で2.5年、地域銀行で2.8年となっています。銀行で投資信託を購入している人でも、平均すると2、3年で投資信託の乗り換えを行っていることがわかります。

販売した金融機関が収益を上げている一方で、利用者は利益を得られているのでしょうか。金融庁が行ったモデルケースの試算によると、過去10年間、2年ごとに、その時々の人気のあった投資信託に乗り換え売買を行っていったとすると、利用者の資産は10年間で約3%減少したようです。選択した投資信託の違いや、乗り換え売買のタイミングの違いなどによって実際の結果は異なるでしょうが、投資信託の乗り換え売買を繰り返し行うことで利用者が安定した収益を得られるのかというと、なかなか難しいのではないかということです。

乗り換え売買のつど販売手数料がかかり、運用管理費用(信託報酬)が日々差し引かれていく投資信託は、それらのコスト負担を上回る運用が行われなければ、当然ながら利用者の資産は目減りしていきます。ここ1、2年は株価の上昇や円安などの影響を受けて、コスト負担を上回る収益が得られたファンドも増えたと思われますが(それが乗り換え売買増加の一要因にもなっていると思われますが)、2、3年ごとに乗り換え売買を繰り返した場合に、それらのコスト負担を常に上回る収益を上げ続けるのは、マーケットの高値安値のタイミングを的確に捉えられなければ難しいでしょう。

そもそもマーケットのタイミングを的確に捉えること自体がほぼ不可能だとすれば、やはり投資信託の短期的な乗り換え売買は、利用者にとってのメリットはほとんどないといえます。また、そのこと自体は、投資信託の販売現場の担当者もある程度は(もしくは十分に)理解していることなのではないかと思われます。

顧客の資産形成のため

顧客の資産形成のためには、投資信託は中長期的な保有を前提とし、単品の商品セールスに終始するのではなく、顧客のポートフォリオ全体のバランスを考えた資産の組み合わせを提案していく。そして、状況に応じてリバランスの必要性を検討していく。これが理想的な投資信託セールスのアプローチです。このような理想は、多くの金融マンが当然に理解しているはずなのです。

しかし、現実問題として理想を実践できないのには、営業現場における実態がそうさせていると考えざるを得ません。金融庁が各銀行に対して行ったアンケート調査によると、営業店における業績評価の判断材料として、7割の銀行が「収益・販売額」に比重を置いているとの結果が出ているようです。一部の銀行では、業績評価の判断材料として「預かり資産残高・顧客基盤拡大」の比重を高めているところもあるようですが、大半の銀行では依然として販売額などが評価の基準となってしまっているらしいのです。

金融機関の収益を上げるための時間や労力を考えると、新規開拓をして預かり資産残高を増加させようとするのと、単なる販売額を増加させようとするのとでは、明らかに後者のほうが担当者の労力は少なくて済みます。そして、後者のほうが業績評価も高いとなれば、乗り換え売買が盛んになるのも当然でしょう。

20年ほど前、大手証券会社の販売の現場にいた筆者からすると、20年経っても現場のスタンスが変わっていないことに愕然とさせられます。乗り換え売買が盛んになっているのは、一概に販売担当者だけの責任とはいえません。金融機関そのもののスタンスが昔からあまり変わっていないことが大きいのではないかと思われます。

したがって、利用者としては、投資信託の乗り換え売買については、販売担当者の意見を聞くのではなく、自分の判断でタイミング等を冷静に判断することが重要だといえるでしょう。それこそが自己責任に基づく判断になりますし、無駄な手数料を支払わない効率のよい資産運用につながるはずです。

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