2014年 第8回 元気なうちにできる「老い支度」あれこれを知っておこう パート2 「任意後見契約と財産管理等委任契約と継続的見守り契約」の実務 後半- 相続の実際の現場からレポ
竹原 庸起子(タケハラ ユキコ)⇒プロフィール
相続専門のファイナンシャルプランナー・行政書士の中野庸起子です。今回は前回のコラムの後半部分です。
前回のコラムでは前半部分として、老い支度の時系列および任意後見契約の実務についてお伝えしました。
後半部分の今回は、任意後見契約と同時におこなうと良い「財産管理等委任契約」と「継続的見守り契約」について説明し、また、A子さんとB子さんの老い支度に臨む気持ちをお話します。
財産管理等委任契約 任意代理契約とは
では次に財産管理等委任契約について述べます。
これは任意後見契約とは違い、まだA子さんが元気なうちの財産管理等を代理人としての権限信頼できる者B子さんへ委託する契約を「財産管理等委任契約」といい、そのうち財産管理はなく、ただ代理人としての権限のみ認める契約を「任意代理契約」といいます。
どちらの契約も任意後見契約と同時に同じ文書で締結が可能ですし、任意後見契約とは別の文書で締結することも可能です。
同時に同じ文書で締結することが、先ほど述べました「移行型」なのです。任意後見契約は公正証書ではないと成立しませんが、財産管理等委任契約は私文書でも公正証書でもいいのです。
実務上の注意点は下記の通りです。
・公正証書で締結しておく方がいい契約です。なぜならば、公正証書のほうが代理人としての証明力が強いからです。もしB子さんが法律上の代理人としてA子さんの預貯金の引き出しを、金融機関の窓口でおこなおうとしても、財産管理等委任契約書が私文書だったら、金融機関は引き出しに応じてくれない可能性が高いからです。公正証書であればそれは大丈夫ですね。
・この契約で受任者B子さんは委任者A子さんのために何ができるのかを明確に契約書に記載しておくことです。B子さんにできることとできないことをはっきりとさせておかなければ、A子さんもB子さんも「こんなはずじゃなかった」となりかねませんね。
継続的見守り契約とは
3つ目の契約である「継続的見守り契約」について説明します。
これは、A子さんがB子さんと任意後見契約を締結した場合でもしていない場合にでも、まだAが元気なうちに(判断能力があるうち)、毎月1回など定期的に電話や訪問でBに安否確認をしてもらうことをA子さんがB子さんに委託する契約のことをいいます。
私文書でも公正証書の場合は公証役場で(まれですが、望ましい形式です)締結します。私文書での契約書の押印は実印でも認印でもいいのですが、A子さんの意思能力・判断能力が必要なので、住所氏名は自署できたほうがいいでしょう。
つまり、継続的見守り契約は 月1回訪問の顧問契約のようなものなのですね。
おわりに
以上に3つの老い支度について説明しましたが、実際にはA子さんとB子さんとは3つとも同時に公正証書で締結しました。
公証役場でこれらの契約をすべて同時に行うには、準備書類も多く、調印日には2時間程度の時間がかかりました。高齢であるA子さんにとっては体力的につらい時間だったようです。
しかしながらこれらの老い支度をすべてすませたA子さんは、これからの老後にたいする不安がほとんど無くなり、調印後にはすっきりとした晴れやかな表情でした。B子さんは、A子さんのこれからの人生の法律的なサポートをする人として、書類が整ったことによって対外的には証明できるようになったことに安心でき、そして自身の決意も新たに身が引き締まる思いになったのです。
思い起こせば、A子さんがB子さんとこれらの老い支度を整えようかと考えだして1年以上の月日が経っていました。
これだけ時間がかかった理由はいくつあります。
まず一つ目は、これらの老い支度を整えてもB子さんはA子さんの家族になるわけではなく、A子さんの療養介護や身の回りの世話はできませんので、A子さんの不安がすべてなくなるわけではなかったことが挙げられます。
これは、介護ヘルパーやケアマネージャーとB子さんとの連携により解決できそうになりました。
二つ目は、A子さんの親族の問題です。
A子さんには近い親族はいなかったのですが、遠方にあまり交流のない親族はいました。この親族からB子さんが信頼されなければならなかったのです。これも時間をかけて解決できました。3つ目は、老い支度に必要なさまざまな契約は民法などの法律に基づくものなのですが、A子さんにとってはこれらを理解するのに時間がかかるほど専門用語が多すぎることです。
高齢であるA子さんにとっては、一度説明されてもすぐに理解するのには酷なのです。
これはB子さんがじっくりわかりやすい言葉に置き換えて何度も何度も説明したことにより解決できました。
これらから考えると、老い支度は、それを必要とする人に対し、まわりの専門家や親族が心を通わせるサポートがいかにできるかどうかにかかっていると言えます。
これからの高齢社会に向けて、専門家も高齢者の家族も、このことに気づいてサポートを続けられるといいですね。
では、次回は、A子さんとB子さんとで後日追加で締結した「死後事務委任契約」についてのお話です。お楽しみに。
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