年金を早くもらうか、遅くもらうか【2017年 第4回】

【2017年 第3回】年金を早くもらうか、遅くもらうか  一番やさしい年金のはなし

菅野 美和子 ⇒プロフィール

公的年金制度において、老後の年金の受け取り開始年齢は、加入していた年金制度や生年月日によって決まっています。ただし、本来の支給開始年齢より繰り上げて早くもらうことも、繰り下げて遅くもらうこともできます。早くもらった方が得? それとも遅くもらった方が得? 誰もが迷うところです。それぞれのメリット・デメリットを理解すると自分にとってよい選択ができます。

◆誤解が多い老齢厚生年金の支給開始年齢

本来の老齢厚生年金の支給開始年齢は65歳です。60歳から64歳までは特別支給の老齢厚生年金が支給されますが、性別や生年月日によって支給開始年齢が決められています。

一例をあげると、平成29年度に60歳になる男性は63歳から、女性は60歳からです。

 

この特別支給の老齢厚生年金を「早くもらう年金」と勘違いしている人は非常に多いです。

60歳~64歳までに受け取れる特別支給の老齢厚生年金は「早くもらう年金」でありません。支給開始年齢で手続きしても損をすることはなく、また、支給開始年齢以降に手続きをしても得することはありません。

支給開始年齢で手続きして損得なしと考えてください。

◆年金を早くもらう

年金を繰り上げて早くもらうとは、本来の支給開始年齢よりも早い年齢で受け取りを開始するということです。たとえば、63歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できる人が60歳から受け取るというようなケースです。

このように老齢厚生年金や老齢基礎年金は、本来の支給開始年齢より早くもらうことができます。一番早い受取り開始年齢は60歳です。早く受け取ることはできますが、年金額は減額されます。1ヵ月繰り上げごとに0.5%の減額です。65歳支給開始の老齢基礎年金を60歳からもらい始めると、60ヵ月繰り上げることになるので、減額率30%(支給率は70%)です。

そして、その年金額は一生続きます。100%に戻ることありません。

60歳から受け取る場合と65歳から受け取る場合の損益分岐点は77歳頃です。受取総額から見ると、60歳から受け取った人は65歳で受け取った人に77歳で追い越されます。しかし、このような損益分岐点を知っても、何歳まで生きるかは誰にもわかりません。

その他にも、繰上げすると、寡婦年金の権利がなくなる、障害年金を受け取れないなる場合もある、65歳までは遺族厚生年金といっしょに受け取れない、国民年金への任意加入ができないなどのデメリットもあります。また、いったん繰上げの手続きをすると、取り消しはできません。

◆年金を遅くもらう

老齢基礎年金や老齢厚生年金を65歳以降に繰り下げて遅くもらうこともできます。繰下げは65歳以降の制度であることに注意してください。63歳で受け取れる特別支給の老齢厚生年金を65歳で手続きをしても、割増はありません。

65歳以降、1ヵ月繰り下げるごとに年金額は0.7%増額されます、繰下げを希望する場合は、66歳~70歳までの間に請求することができます。70歳で受け取りを開始すると、60ヵ月繰り下げることになるので、増額率は42%です。

当然のことですが、70歳まで遅らせると、65歳から70歳までの5年間、年金収入はありません。70歳になり割増のついた年金を受け取っても、仮に71歳で死亡すれば、65歳から通常どおり受け取ったほうがよかったことになります。

70歳まで繰り下げた場合の損益分岐点は82歳頃。82歳以上長生きすれば65歳から受け取ったときと比較して受取総額は増え、81歳以下で亡くなれば受取総額が下回るということです。やはり、結果は寿命しだいです。

早くもらうか、通常どおりもらうか、遅くもらうか、決め手は老後の生活設計です。暮らしていくためにどのくらいのお金が必要でしょうか。早くもらってあとで年金額が少ないことを嘆くことにならないか、今後の生活を見通して受け取る時期を決めましょう。

 

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