【2017年 第2回】投資信託で知らぬ間に損してた?
元銀行員が教える、知って得する「銀行あるある」
松原 季恵 ⇒プロフィール
このコラムでは銀行員時代に学んだ、銀行にありがちで陥りがちな銀行商品における「銀行あるある」の教訓から金融商品との付き合い方をお伝えします。
第2回は投資信託での銀行あるあるです。馴染みのある銀行で投資信託を始めたいと考える人もいるでしょう。しかし銀行で取り扱っている商品とはいえ投資信託はリスク商品、損することもあります。
銀行でお客様が陥りやすい事例をもとに投資信託取引時の気を付けるポイントを見ていきましょう。
FPになってからのお客様で「分配金を受け取って喜んでいた。しかし、どうやら資産が目減りしているということがわかり、元を取ろうと何度も売買しているうちに、気づいたら投資金額が半分以下になってしまった」と悩んでいる方がいました。投資信託は少額から始められ初心者に向いていると言われますが、その中身は複雑。知らないうちに損をしていたという人が少なくありません。
そもそも投資信託とは
投資信託とは、たくさんの投資家から集めた資金をひとまとめにして、運用の専門家が株や債券などで運用する商品です。投資判断を任すことができ、一つの商品で複数の投資先に分散してリスクを減らし、個人では投資しにくい国や不動産などで運用できる点がメリットとされています。
イメージ図のように投資信託での運用は、銀行など販売会社だけでなく、運用を指示する運用会社、資産を管理する信託銀行等が関わってきます。投資経験の少ない投資家であっても専門家の手を借りて運用ができる仕組みですが、その分、これらの会社に手数料も払う必要があるものです。
また投資信託の特徴として分配金があります。投資信託ではファンド(商品)によって毎月や半年に1回などの頻度で決算が行われ、決算日ごとに分配金を支払います(分配金がないファンドもある)。分配金は運用で得られた収益から支払われるものですが、運用期間中に収益がなくても「元本払戻金(特別分配金)」として支払われることがあります。この場合、実質は投資したお金をそのまま取り崩しているようなもので、収益ではないので税金もかかりません。
人気な分配金。仕組みはわかりにくい
私が銀行員をしていたとき、分配金を出すファンド、特に「毎月分配型」に人気がありました。年に一回支払われる僅かな預金利息と比較して毎月ある程度のお金が通帳に振り込まれるのが魅力だったようです。年金においては2カ月に1回の支払いなので、分配金によって毎月の楽しみができたと喜ぶ方もいました。
しかし、分配金は運用状況によっては単なる元本の取り崩しである「元本払戻金」になることもあります。それでも気づかない人も少なくありません。というのも、分配金が振り込まれる通帳には、「トウシシンタク」などの項目で入金され、通帳だけではその分配金の種類までは分からないからです。
分配金が元本払戻金かどうかは、分配金が支払われたら届けられる支払いの通知書を見て確認ができます。しかし分配金の入金からも時間があいて関心が薄くなっており、書類に書かれた言葉は難しいためよくわからずにそのまま捨てる、という人も多いでしょう。
また、今は元本払戻金となりましたが、以前は「特別分配金」としか呼ばれていませんでした。この名称もくせ者で「特別」と言われると「税金を支払わなくてもよい“特別な”分配金」というイメージでなんだかお得な感じがしてしまうのかもしれませんね。
手数料は実感しにくい
投資信託にかかる手数料もあまり気にしていない人が少なくないように思います。
投資信託の手数料は主に3つあり「販売手数料」「信託報酬」「信託財産留保額」です。販売手数料は購入時に一度支払うもので、信託報酬は運用を代わりにしてくれる会社に支払う手数料で、保有しているあいだ毎日支払い、信託財産留保額は換金時に一度支払います。その額は投資した金額に対するパーセンテージで表示され、0~3%とファンドによって異なります。
銀行で支払うATMや振り込み等の手数料の多くは金額で示され、その負担感は直に伝わります。一方、投資信託は手数料がパーセンテージで示されています。そうなるとたちまち金額がボケてしまいます。
例えば、販売手数料1.5%というのは、100万円分購入した場合には15,000円もの手数料を払うということですが、その金額の大きさに気が付かず、送金手数料の数百円の方が気にしている人は多いように感じます。何度も売買を繰り返すと、その度に販売手数料と信託財産留保額として、このような費用を支払うことになります。
また1%と3%の手数料の差というのは3倍もあるのに大きくとらえにくいです。信託報酬については毎日支払うもので、特に運用成績を左右します。手数料率を理解したうえで投資すべきでしょう。
投資信託を短い時間で理解するのは難しい
銀行では分配金は約束されたものでないことを伝えるように強く言われていました。また、手数料も資料を使って説明するようにも教育されていました。これらを説明したかのチェックシートもあったほどです。
正確性や信用を大切にする銀行では、どうしても一つ一つの取引が長くかかりがちです。投資信託の取引でも時間を要することが少なくありません。とはいえ、「忙しそうで悪い」なんて思わずに、分からないことは最後まで質問しましょう。その日に分からなければ日を改めても良いです。また、別の行員に聞いても良いでしょう。ただでさえ複雑な投資信託、短い時間で理解するのは難しいです。分からない状態で購入をすることがどんな金融商品よりも一番リスクが高いと言えるのではないでしょうか。
投資信託で運用するには
とはいえ、投資信託は個人が資産を増やす手段として有効です。投資信託で運用する場合は、内容が理解できるまでさまざまな情報を集めて自分の運用方針を決めてから始めるのが良いでしょう。
銀行で投資信託を始める場合、銀行では担当者が付くことがありますが、あまりその担当者に頼りすぎず、敢えて別の日に違う行員の話を聞いても良いです。というのも、銀行員は数年で転勤するのが常です。運用は人それぞれ考え方が異なることもあるので、一人の行員の考えに頼りすぎると、その行員が転勤した時に混乱してしまいます。
なお、相談する行員を役職で判断する必要はありません。「支店長」とか「代理」とか肩書があると、そのような人と取り引きするだけで偉くなった気持ちになります。しかし、銀行で投資信託を販売し始めてまだ20年程度です。年代が上の人ほどかえって投資信託にアレルギーがあるということもあります。
また、銀行に限らず証券会社や運用を専門とするFPに相談してみると様々な立場から意見や説明をもらえます。行き慣れなくて悩む場合は、とりあえず知っている金融機関から訪ねてみるので構いません。さまざまな人に相談していく中で、正しい知識が身につき、自分の投資方針を見つけていくことができます。そして最初は少額から慣れていき、定期的に投資方針や配分を見直しながら長期的に積み上げていってはいかがでしょうか。
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