【2012年 第3回】 『法人契約のがん保険の税務処理変更』
ケース別コラム – 最新の「保険」商品情報!
久保 逸郎 (クボ イツロウ)⇒ プロフィール
平成24年4月27日付で国税庁から「法人が支払う「がん保険」(終身保障タイプ)の保険料の取扱いについて」という通達がリリースされました。適用開始がリリース当日の平成24年4月27日になっていますので、同日以後に法人契約で加入したがん保険の会計処理は新たな通達に基づいて行われることになります。
■税務処理変更の趣旨
これまでは法人契約のがん保険(終身保障タイプ)は平成13年8月10日に出された通達に従って、終身払込で保険金受取人が会社の場合、払い込んだ保険料が全額損金の形で損金算入されてきました。企業などにとっては従業員の福利厚生の充実を図りながら節税が行えるということで、決算対策などの意味も含みながら、がん保険(終身保障タイプ)を利用することに大きなメリットがありました。
しかし、保険期間が終身であるがん保険は、保険期間が長期にわたるものの、高齢化するにつれて上昇していく発生率等に対して平準化した保険料を算出していることもあって、保険期間の前半に中途解約又は失効した場合には相当多額の解約払戻金が生じていました。保険会社間の商品開発競争もあり、なかには解約返戻率で90%を超えるような商品も出てきて節税効果が大きくなり過ぎたことが、今回の税務処理の変更につながったと思われます。
■新しい税務処理
上記のような状況から、支払保険料を単に支払の対象となる期間の経過により損金の額に算入することはできなくなり、下記のように税務上の取扱いが変わりました。
<1> 終身払込の場合
①前払期間・・・各年の支払保険料の額のうち2分の1に相当する金額を前払金等として資産計上し、残額については損金の額に算入
②前払期間経過後の期間・・・各年の支払保険料の額を損金の額に算入するとともに、次の算式で計算した金額を①による資産計上額の累計額から取り崩して損金の額に算入
※前払期間とは→加入時の年齢から105歳までの期間を計算上の保険期間として、当該保険期間開始の時から当該保険期間の50%に相当する期間
<2> 有期払込の場合
①払込期間
Ⅰ.保険料払込期間が終了するまでの期間
次の算式で計算した金額(当期分保険料)を算出して、各年の支払保険料の額のうち当期分保険料の2分の1に相当する金額と当期分保険料を超える金額を前払金等として資産計上して、残額は損金の額に算入
※一時払の場合には、その一時払いによる支払保険料を上記算式の「支払保険料(年額)」、「保険料払込期間」を1として計算を行う
Ⅱ.保険料払込期間が終了した後の期間
当期分保険料の2分の1に相当する金額を、aによる資産計上額の累計額から取り崩して損金の額に算入
②前払期間経過後の期間
Ⅲ.保険料払込期間が終了するまでの期間
各年の支払保険料の額のうち、当期分保険料を超える金額を前払金等として資産に計上して、残額については損金の額に算入
また、次の算式で計算した額を<2>の①による資産計上額の累計額から取り崩して損金の額に算入
Ⅳ.保険料払込期間が終了した後の期間
当期分保険料の金額と取崩損金算入額を、<2>①Ⅰおよび②Ⅲによる資産計上額の累計額から損金の額に算入
<例外的取扱い>
保険契約の解約等において払戻金のないものである場合等は、上記にかかわらず保険料の払込の都度当該保険料を損金の額に算入
■変更後もがん保険に魅力
今回の変更で大変残念なのは、これまでシンプルだった会計処理が上記のような複雑な計算方式に変わったこと。平成24年4月27日以前に契約を行ったものと、同日以後に契約を行ったもので会計処理を変えなくてはいけない上に、上記のように多少手間のかかる計算をしなければいけなくなったことです。
その一方でよかった点もあります。それは法人ががん保険に加入した場合の損金に算入できる割合がある程度高かったことです。企業、とくに中小企業においては、経営者や役員・社員などががんに罹患して一時的でも職場を離れるような事態が起こると、大企業と比較して、大きな影響が出てくる可能性が高いと思います。全額損金での処理はできなくなったとはいえ、企業として従業員のがん罹患のリスクに備えられるので、法人契約でがん保険に加入するメリットはまだまだ大きいはずです。
今回の変更をきっかけに、節税目的ではなくリスクへの対処という観点から、がん保険の存在を改めて見直してみてはいかがでしょうか。
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