【2015年 第11回 株価純資産倍率(PBR)基礎編】 イメージ図で理解すると投資指標って簡単!
伊藤 美恵 ⇒プロフィール
せっかく参加した株式セミナーで、聞いたことに対して理解出来ないと感じたことはありませんか?その原因のひとつが、実は投資指標なのです。投資指標が理解出来るだけで、難しいと感じるハードルは、ずっと低くなります。今月は、株価純資産倍率(PBR)を取り上げてみたいと思います。
株価純資産倍率(PBR)とは?
株価純資産倍率は、「倍率」という言葉で表されているとおり、何倍かどうかを見る指標であることを頭に入れてください。株価純資産倍率とは、「株価」が「1株当たりの純資産」の何倍の水準かを表すかを見る指標です。株価純資産倍率が1倍を割り込むと株価は割安とされています。
株価純資産倍率は、英語でPrice Book-value Ratioで表され、略して「PBR」とも言われています。株価収益率(PER)でもお話しましたが、Priceは、価格のことを言いますが、株式の世界では「株価」を意味します。Book-valueは帳簿の簿価ことを言いますが、ここでは「純資産」を指しています。なお純資産は、貸借対照表(B/S)の貸方(右側)の下段にあるものです。お忘れの方は、「マイアドコラム2015年 第2回及び、第3回 財務諸表を理解しよう!貸借対照表編」をご覧くださいね。Ratioは、比率や率のことを言います。ここで分かることは、株価と純資産の比率を見るものだということです。
もちろん、株価そのものが、「1株いくらであるか」という表示のため、「純資産も1株当たりいくらであるか」に直してあげないといけません。したがって、株価純資産倍率(PBR)を求める前に、「1株当たりの純資産」を求める必要があります。「1株あたり純資産」のことは、Book-value Per Shareの略で「BPS」とも言われています。もちろん、Book-valueは帳簿の簿価のことでしたね。ここでは純資産を指します。Perは「1個に付き・1つ毎に」等という意味があり、ここでは「1株ごと」という意味となります。Shareは、シェアする、分け合うという意味です。1株あたりの純資産(BPS)は、「純資産を1株ごとに分ける」ことです。1株あたりの純資産(BPS)は、会社の安定性を見る重要な指標であり、BPS指標が高いほど、その企業の安定性が高いことを示しています。
株価純資産倍率(PBR)の求め方
まずは、「1株当たりの純資産(BPS)」を求める必要があります。総額の純資産より1株当たりの純資産を求めるには、純資産を発行済株式総数で割って求めます。
「1株当たり純資産(BPS)」と「株価純資産倍率(PBR)」のイメージ図
上記の計算式を、イメージ図に表わしたものです。一つずつ、次の文章とイメージ図を対比させて読み進めてください。
「①純資産」を「②株式総数」で割ったものが、「③1株当たり純資産(BPS)」です。
「株価純資産倍率(PBR)」とは、「④株価」が「③1株当たり純資産(BPS)」の何倍の水準であるかを示した指標です。
まずは、1株当たりの純資産倍率の計算です。「①純資産100万円」を「②株式総数1000株」で割ったものが、「③1株当たり純資産(BPS)1,000円」です。
【1株当たりの純資産倍率の計算式】
1株当たり純資産倍率(BPS)=純資産100万円円÷発行株数1000株=1,000円
次に④-(1)についてです。「①純資産100万円」「②株式総数1000株」「④-(1)株価800円」の会社であるならば、「④-(1)株価800円」は、「③1株当たり純資産(BPS)1000円」の「0.8倍」であることから、株価純資産倍率は0.8倍であることが分ります。
【計算式④-(1)】
株価純資産倍率(PBR)=株価800円÷BPS1,000円=0.8倍
次に、④-(2)についてです。「①純資産100万円」「②株式総数1000株」「④-(2)株価1,200円」の会社であるならば、「①純資産100万円」を「②株式総数1000株」で割ったものが、「③1株当たり純資産(BPS)1,000円」です。「④-(2)株価800円」は、「③1株当たり純資産(BPS)1,000円」の「1.2倍」であることから、株価純資産倍率は1.2倍であることが分ります。
【計算式④-(2)】
株価純資産倍率(PBR)=株価1,200円÷BPS1,000円=1.2倍
株価純資産倍率が1倍を割る場合は株価が割安だとお話しましたね。株価純資産倍率が1倍を割るということは、株価が1株当たりの純資産より低い状態であることを表します。1株当たりの純資産は、企業が解散した時に名目上、株主が受け取れる1株当たりの金額のことなのです。
計算式④-(1)株価800円の場合の株価純資産倍率は、0.8倍のため割安であることが分かります。つまり、株価純資産倍率が1倍割れの場合、株価よりも現時点で企業を解散した場合、株主が受け取ることができる金額が高いため、株価が割安だと判断できるのです。
したがって、株価純資産倍率というのは、企業価値と株価を比較する指標であることが分かります。
一方、計算式④-(2)株価1,200円の場合の株価純資産倍率は、1.2倍のため割高であることが分かります。つまり、株価純資産倍率が1倍以上のため、1,200円で購入した株式であるのに対して、現時点で万が一、企業が解散した場合、株主が受け取ることができる金額が1,000円しかもらえないため、割高だと判断できるのです。
ただし注意することは・・・
1株当たりの純資産は、あくまでも帳簿上のものであることです。それも、今日の帳簿の数字ではなく、直近の決算日の帳簿上の1株当たりの純資産であるということです。例えば、決算の後、資産を売却したとします。保有している固定資産や有価証券が、決算日よりも価格が下落していて、決算日の帳簿上の金額よりも安くしか売却出来なかった場合、貸借対照表(B/S)の借方(左側)の総資産も、貸方(右側)の純資産も減少します。
決算後に純資産が減少した場合、決算時純資産を元に計算した株価純資産倍率が1倍を割っていたとしても、資産の含み損を考慮して計算(つまり今日時点の純資産)を計算した場合、実際には株価純資産倍率が1倍を超えてしまうこともあることを覚えておいてください。そして、残念ながら、今日時点の純資産は、一般的に私達投資家は確認することが出来ません。なぜならば、企業は多くても四半期に一度しか、決算短信を公開していないためです。
また、そもそも決算日の帳簿上の固定資産に含み損がある場合もあります。例えば、土地などの固定資産を、購入時の金額で計上している場合などです。1億円で購入した固定資産のため、帳簿上の総資産に1億円と記載しているが、決算日の土地の固定資産の価値が8,000万円しかない場合などです。これは、そもそも決算日の帳簿上に含み損があるのです。ただし、毎年変わる可能性のある土地などの固定資産の評価に、売却予定もないのにも関わらず、専門家に毎年、固定資産評価の診断を頼む企業は稀でしょうから。
その一方、決算日の帳簿上の固定資産に含み益がある場合もあります。この場合は、5,000万円で購入した固定資産を、購入時の金額で計上しているが、現在の価値が1億円になっている場合です。株価純資産倍率が1倍を超えて割高だと思っていた企業が、実際は1倍を割れていたという場合もあるでしょう。
直近の決算日の帳簿上の数字を元に計算された株価純資産倍率のことを、様々な株価指標を見るホームページなどでは「実質PBR」と表されていますので、今度見てみてくださいね。
次回は、株価純資産倍率(PBR)を実際に見てみることにしましょう。今回は基礎編で、来月は実践編でお届け致します。
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