シンガポールからの報告「『教育立国』シンガポール」【2015年 第2回】

【2015年 第2回 シンガポールからの報告「『教育立国』シンガポール」】
「いまシンガポールで起きていること」-シンガポール在住ファイナンシャルプランナーからの報告-

永柄 正智 

前回はシンガポールの成長の軌跡についてお話をしましたが、今回はシンガポールの成長と繁栄の源ともなっている「教育」について取り上げます。 シンガポールの教育を語る上において、この国の成り立ちとシンガポール「建国の父」と言われる故リー・クワンユー初代首相の存在を抜きに語ることはできません。シンガポールの今日の繁栄は、戦略的な教育制度による有能な人材育成によって成し遂げられたと言っても過言ではないのです。

 

 

 

皆様、こんにちは。シンガポール在住のファイナンシャルプランナー 永柄正智です。

先月3月23日にシンガポールの「建国に父」、リー・クワンユー氏が91歳で亡くなられました。シンガポール国立大学で行われた葬儀には、安倍首相をはじめ、ビル・クリントン前大統領やインドのモディ首相など、世界各国から首脳や要人が多数参列し、同氏のこれまでの功績の大きさを示すものとなりました。

シンガポールがマレーシア連邦から追放される形で独立・建国されてから、今年でちょうど50年を迎えます。この資源の無い小さな国を世界有数の貿易拠点と金融センターに育て上げ、アジア随一の豊かさを誇る都市国家に育てた立役者が、故リー・クワンユー初代首相なのです。

■国家の将来は教育にある

そのリー・クワンユー氏が国の成長のために最も重視したことの一つが教育でした。
同氏は資源のないシンガポールでは「人材が最大の資源」であることを自覚し、戦略的な教育によって有能な人材を育てていくことの重要性を説きました。

その一つが子供に対する英語による教育です。シンガポールは英国の植民地時代から英語が行政用語として使用されていましたが、独立前の日常的なコミュニケーションは、主に各民族の母国語が使用されていました。しかし独立後のシンガポールでは、民族間のコミュニケーションを更に円滑にするために英語を公用語の一つに定め、初等教育から高等教育までの教育を英語で行うことにしたのです。

言語の習得は一朝一夕に出来るものではありません。しかし、教育の現場で英語を使用することによって、英語が国民共通のコミュニケーションツールとなり、そのことが結果としてシンガポールの国際化と発展のための大きな武器となりました。

■シンガポールにおける教育の選択肢

それでは具体的にシンガポールではどのような学校を選ぶことが出来るのでしょうか。
大多数のシンガポール国民や永住権保持者の子供達は、ローカルスクールと言われる公立学校に通っています。ローカルスクールは初等教育が6年、中等教育が4年、高等教育が2年という学制になっていますが、最も特徴的なのは、初等教育を卒業する時に生徒全員に対して実施されるPSLE(Primary School Leaving Examination)と呼ばれる卒業試験があることです。子供達はこの試験を受験し、その成績によってその後の進路が決定されることになります。PSLEはシンガポールの子供達にとっては人生最初の大きな関門と言えるでしょう。このような制度に対しては賛否両論があると思いますが、人生の早い段階からその後の進路を左右する試験制度が導入されていることも、シンガポールならではの教育システムなのではないでしょうか。

学校の選択肢はローカルスクール以外にも存在します。シンガポールへは世界各国から多数の駐在員が集まってきています。そのため、アメリカやイギリス、カナダ、オーストラリア、インドなどのインターナショナル・スクールが数多く進出しています。インターナショナル・スクールの特徴としては、世界的に認められた大学入学資格である「国際バカロレア」を取得できるプログラムを持つ学校が多く、また、世界各国から様々な文化を持った生徒達が集まってくるため、多様性を受け入れる環境が整っていることでしょう。

また、日本の方であれば日本人学校を選ぶことも可能です。シンガポールの日本人学校の規模は世界でも有数で、教育水準も非常に高く、生徒の平均学力は世界でも随一と言われています。

■実際の教育の現場で行われていること

さて、実際の教育現場ではどのような学習がなされているのでしょうか。

私の子供達が通っているインターナショナル・スクールの特徴を挙げるとすれば、それは

パソコンやタブレット端末を活用した学習が多いことでしょう。基本的に日本の学校の様

な教科書は存在せず、授業はパソコンを使用して進められます。例えば、クラスメートの

前でプレゼンテーションを行う授業では、パソコンで情報を収集した上でプレゼンテーシ

ョンのためのスライドを作成する必要があるため、必然的にパソコンスキルが上達します。

また、宿題は学校独自のポータルサイトを通して行い、先生に対して自宅からメールで質

問をすることも可能です。

このように、学習を進めていく中でパソコンの操作や活用方法を学ぶ機会が早い段階から

得られることは、子供達の将来にとって大きなアドバンテージになるのではないでしょう

か。

■多様性を認めることは自らを知ることから

「WHO WE ARE」(わたしたちは何者なのか)。これはシンガポールの学校で使用されている教育プログラムの標語の一つなのですが、自らを知ることの重要性をわかりやすく表現している言葉だと思います。

様々な国の人々や民族が集まるシンガポールですが、学校では生徒一人一人のアイデンティティーがとても大切にされているようです。それぞれの国の伝統衣装を着て参加する行事などもありますし、他の国の文化や伝統を学習する機会も数多くあります。

シンガポールの特徴である「多様性を許容する社会」の根底には、各自のアイデンティティーを大切にしつつ、他の文化や価値観を認めることができる人材の育成が関係しているのではないかと思います。

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