シンガポールからの報告「『ASEAN経済共同体』発足のインパクト」【2015年 第5回】

【2015年 第5回 シンガポールからの報告「『ASEAN経済共同体』発足のインパクト」】
「いまシンガポールで起きていること」-シンガポール在住ファイナンシャルプランナーからの報告-

永柄 正智 

いまや世界中でボーダレス化が進み、人やモノの動きが国境を越えて活発になっています。現在大詰めの交渉が行われている「TPP」(太平洋パートナーシップ協定)が妥結し締結されることになれば、経済規模で世界全体のGDPの6割を占める巨大な自由貿易圏が誕生することになり、日本でもますます貿易の自由化と拡大が進んでいくことになるでしょう。
さて、今年はASEAN(東南アジア諸国連合)においても、ASEAN経済共同体(AEC)が発足する重要な年と位置付けられています。今回はAEC発足による影響やインパクトを考えます。

 

皆様、こんにちは。シンガポール在住のファイナンシャルプランナー 永柄正智です。

急増している訪日外国人の中でも、近年の経済成長によってASEAN諸国からの訪日客数は年々増加しています。ASEAN(東南アジア諸国連合)が1967年に発足してから今年で48年が経過しますが、ASEANの現在の状況はどのようになっているのでしょうか。

 

 

■ASEANの現状

ASEANはご存知のとおり、シンガポール・マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン・ベトナム・カンボジア・ミャンマー・ラオス・ブルネイの10カ国で構成されています。面積は日本の約12倍、人口は約6.2億人(EUは約5億人)と日本の約4.8倍に達しており、さらに増加を続けています。域内で人口が一番多い国はインドネシアの約2億5千万人ですが、昨年はフィリピンの人口が1億人を突破し、2028年には日本の人口を追い抜くといわれています。特にフィリピン国民の平均年齢は23歳と若く、昨年の経済成長率は6.1%となっており、労働力が経済成長を押し上げていく「人口ボーナス」が今後も続くと見られています。

■ASEAN経済共同体(AEC)とは

AEC発足によって、域内での「モノの自由化」「ヒトの自由化」「サービスの自由化」が進められます。まず域内の関税に関しては、シンガポール・マレーシア・インドネシア・タイ・フィリピン・ブルネイの6カ国では、2010年に原則として全て撤廃されています。
AECでは、残りの4カ国(ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー)も含めて2018年までに例外を除く全品目の関税を全て撤廃することを目標としています。

次にヒトの自由化ですが、短期滞在ビザについてはミャンマーを除いて撤廃が完了しています。域内の国籍を持つ人は各国に自由に出入りすることができるため、観光客数の増加や相互交流の活発化などにより経済の活性化が期待されています。

最後にサービスの自由化ですが、シンガポールやカンボジア以外の国では外資規制が厳しく、法人設立等に際して高いハードルが存在しています。AECの発足に向けてこれらの規制緩和について交渉が進められているところです。

■自由貿易の及ぼす影響

シンガポールは世界で最も貿易の自由化が進んだ国のひとつに数えられます。日本が2002年に締結したFTA(自由貿易協定)もシンガポールが初めてですが、シンガポールは現在22のFTA(自由貿易協定)を締結しており、全輸出入量の約95%がこれによってカバーされています。この自由で開かれた貿易環境こそが、中継貿易地としてのシンガポールの地位をさらに高めています。

自由貿易の恩恵はシンガポールでの日常生活でも感じることができます。特にスーパーでは、世界中の野菜や果物、商品が並べられており、新鮮なアメリカ産のイチゴやエジプト産のブドウ、オーストラリア産のジャガイモなど、様々な産地のものが販売されています。その中でも、日本の野菜やくだものはこちらでも人気が高く、価格は高めに設定されていますがよく売れています。

■日本への影響と今後

TPPに関しても同様ですが、自由化を進めることで競争が促されますが、その反面でチャンスが拡大します。以前に比べて日本政府が外国人観光客に対するビザの発給要件を緩和したことで、訪日外国人客数はいっきに増加しました。

今後、日本とASEANの関係がより一層緊密になっていく中で、AECの発足は日本にとっては大きなチャンスになるでしょう。特に道路等の建設や新幹線などインフラの整備で強みを持つ日本の企業にとっては、日本の高度な技術を活かして投資を行うことができる機会になると思います。

日本の方々も、市場が開放されることを前向きに捉えて海外の市場に目を向ければ、ますます日本の魅力や強みを活かすことが出来ると思います。AECの発足は、ASEANと共に日本が成長する絶好の機会だと感じます。

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