【2012年 第8回 子どものいない妻の相続】女性のための幸せ相続を考える
マイアドバイザー®事務局 株式会社優益FPオフィス
お子さんのいないご夫婦の相続では、夫が先に亡くなった時、妻が先に亡くなった時、そして二人とも亡くなった後のこと、の3つの視点で備えておくことが必要です。大切なパートナーの老後を守り、親族間にトラブルを残さないためにできること、すべきこととは?
お子さんのいないご夫婦は、夫(または妻)が亡くなると、配偶者だけでなく、自分の親または兄弟も相続人となります。親兄弟が死亡している場合には甥、姪に相続権が移ります。そうなると様々な問題が起きやすく、揉めてしまうことが少なくありません。
■ 子どものいない夫婦。最後はどうなる?
子どものいない夫婦は最近増えていますので、今後増えると想定されるケースを例に見てみましょう。
夫が先に亡くなり、相続人である妻が夫の兄弟たちと遺産分けの話し合いをすることになりました。ところが、話し合いひとつ進めるのも大変でした。夫の兄弟たちの中にはすでに亡くなっている人もおり、甥姪の代になっています。甥姪とも小さい頃は行き来があったものの今では顔もよく分らず、手紙を送ってもなかなか返事が来ないなどで、話し合いは簡単には進みませんでした。
遺産といっても主には妻が今住んでいる家と土地だけで相続税の心配はありません。夫の兄弟側も家と土地は要らないけれどいくらかの代償金(いわゆるハンコ代)が欲しいと主張してきましたが、老後の生活のことも考えると、妻の手元には払えるだけの十分なお金がありません。
調停をすることにしましたが金銭面で折り合うことができずに時間だけが経ち、やがて妻自身が体調を崩し、寝込んだと思うとあっけなく亡くなってしまったのでした。
結局、それから数年経っても家や土地の名義は夫のまま。住む人のいない家は傷みが進んでいきました。一度不審火騒ぎがあったとかで、固定資産税を払っていた遠方に住む妻の甥(亡くなった妻の兄の子)が役所から連絡を受け、庭の草刈りと見回りに行きましたが、遠方からそう度々管理に出向くこともできません。
家を壊して土地を売却したくとも、夫側の相続人全員の合意と印鑑証明書が必要です。妻の甥も、それらの手続きを全て自分が担うことに大きな負担を感じています。
そうこうしているうちに夫の兄弟たちは皆亡くなり、甥姪の代に問題は引き継がれ、手続きも複雑化していきました。結果、何年経っても夫の相続問題は解決せず、妻の相続手続もされないままに誰も住まない廃墟と化した家は傷みが進むばかり・・ということになってしまいました。
なお、甥姪たちも亡くなると、その子供たちに相続関係(再代襲相続)が引き継がれることはありません。今度は家庭裁判所の手続を経て、最終的には夫婦の遺産は国のものになります。
■ 「夫婦相互遺言」プラス「予備的遺言」で、夫も妻も備えておく
お子さんがいないご夫婦は、遺された妻(夫)の老後を守るためにも、互いの親族に迷惑をかけないためにも、ふたりが亡くなった後をどうするかということまで決めておく必要があります。
「私が死んだら全ての財産を妻(夫)に相続させる。妻(夫)が私より前に、または同時に死亡した場合には、私の甥の○○に相続させる。」などの内容を含む遺言書を夫婦それぞれが書いて意思を明確に表しておくことが重要な対策となります。これを「夫婦相互遺言」と言い、自分より相手が先または同時に死亡の場合の財産の行方を決めておくことを「予備的遺言」と言います。
<夫が妻のために遺言>
遺された妻のために、自宅や老後の資金の確保を考えます。夫の親が他界している場合には、相続人となる夫の兄弟姉妹が4分の1の相続分を持ちますが、兄弟姉妹については遺留分がないため、遺言書で兄弟姉妹の相続分をゼロとすることも可能です。「全財産を妻に相続させる」という遺言書があれば妻が単独で相続手続が行えるため、夫の兄弟姉妹に印鑑証明書をとってもらったりハンコ代を支払う義務もありません(ただし夫の親が相続人となる場合には、親には遺留分があります。)
<妻が夫のために遺言>
女性のほうが長生きだし、後に残るのは妻の私だからと何もせずにいると、万が一、妻が先に亡くなった場合に夫が困ることになってしまいます。妻の預貯金の払い出しもできず、夫と妻の親兄弟とで遺産分割協議を行わなければなりません。特に、自宅が夫と妻の共有名義である場合などは、妻の持分をめぐって妻の親族と揉め事になることもありますので、妻も遺言書を書いておくことは必要です。
遺言書は紛失や偽造の心配のない公正証書遺言にし、かつ、遺言書の内容を確実に実現し手続きを行ってくれる遺言執行者も決めておくと安心です。
夫婦ふたりで旅行などに出かけていて一緒にアクシデントに遭遇することもあるかもしれませんので、早いうちに相続についてふたりでよく話し合っておくことが大切です。夫が遺言書を書いたら、ぜひ同じタイミングで妻も夫のために遺言書を書いておきましょう。
ただし、共同で遺言することは法律上できませんので、いくら仲が良くても二人で同一の用紙には書かずに、夫婦それぞれで別々の遺言書を作るようにして下さい。
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