経営者の老後の年金【2012年 第4回】

【2012年 第4回 経営者の老後の年金】- 経営者のための社会保険・労務管理

菅野 美和子(スガノ ミワコ) ⇒プロフィール

60歳以降、厚生年金に加入しながら働き続けていると、老齢厚生年金の全額あるいは一部が支給停止されることがあります。経営者の報酬は高いことが多いので、まったく年金をもらえないというケースが多いです。そこで経営者の役員報酬をどう決定するか、どうすれば年金を受け取れるのか、報酬を下げても年金を受け取るほうが有利なのかと、いろいろな疑問が生じてきます。今回は「役員報酬と在職老齢年金」がテーマです。

健康保険料・介護保険料

平成24年3月分(4月納付分)よりの健康保険料・介護保険料が上がりました。健康保険(協会けんぽ)の保険料率は都道府県別ですが、全国平均で10.0%となりました。介護保険料は全国一律で1.55%となりました。

厚生年金保険料率は現在16.412%ですが、9月からはさらにアップすることが決まっています。(18.3%までアップ予定)

このように社会保険料は大きな負担です。その負担も年々増えています。

社会保険料は給料(標準報酬月額)やボーナス(標準賞与額)に保険料率を掛けて求めるのですが、役員の場合、役員報酬にもとづき、保険料算定の基礎となる標準報酬月額を決定します。

標準報酬月額には上限があり、健康保険は121万円、厚生年金保険は62万円です。実際に支給される報酬がもっと多くても、上限以上に保険料を負担することはありません。

年金の支給開始年齢は段階的に遅れていきますが、当分の間、60歳で要件を満たした人には老齢厚生年金の受給権が発生します。

そこで気になるのは、実際に支給される額のこと。

受給権が発生しても、本来の年金額を全額受け取れるわけではありません。報酬が高いと年金は支給停止となります。

では、年金を受け取るために役員報酬を下げたほうがよいか、役員報酬をどう設定すれば有利になるかについて考えてみましょう。

役員報酬をどう設定すれば有利になるか

役員には賞与を支給しないことが一般的です。また雇用保険も対象外です。賞与なし、雇用保険からの給付なしなので、役員の在職老齢年金については比較的わかりやすいでしょう。

仮に60歳からの老齢厚生年金が120万円(年額)だとすれば、役員報酬(標準報酬月額)が38万円となれば全額支給停止、それ以下であれば一部支給となります。

60歳以降の役員報酬を月額30万円代で検討するのであれば、支払う社会保険料や年金受取額を考えて役員報酬を検討してみるものよいでしょう。

しかし、現在62万円の標準報酬月額で、実際にはそれ以上の役員報酬を受けている人は、年金を受け取るために報酬を減額すると、入ってくるお金が大幅に少なくなってしまいます。

年金をなるべく多く受け取りたい、役員報酬も減額せずに受け取りたいと考えることは、もともと無理があります。簡単にいうと、役員報酬を取れば年金をあきらめることになる、年金を取れば役員報酬をあきらめることになるということです。

年金は全額停止になってもこれまでどおり役員報酬を受け取るか、あるいは役員報酬を下げて年金を受け取るかの選択です。

「どちらがよいか」ということではなく、会社の経営や自分のライフプランを考えて、「どちらを選択するか」です。

他に何か手立てがないかといえば、考えられる方法はあります。

たとえば夫婦で役員という場合、夫が60歳になれば役員報酬を減額し、妻がその分報酬を受け取り、夫婦としての収入が下がらないようにするということも考えられます。

ただし、妻の年間収入が850万円以上になると、夫が死亡した場合、妻は遺族厚生年金をもらえませんので、どこまでも妻の収入を増やしてよいということでもありません。

後継者として子どもが役員となっているのであれば、後継者の役員報酬を増やすという方法もあります。具体的には税理士、社労士等、専門家の知恵を借りて相談されることをおすすめします。

65歳以降、在職老齢年金の仕組みはかわります。65歳以降はどんなに報酬が多くても老齢基礎年金と経過的加算(差額加算)は受け取れます。

70歳以降、現役で仕事をしていても、厚生年金保険料を負担することはありませんが、在職老齢年金の影響を受け、年金の支給停止が続きます。常勤役員を辞めない限り、老齢厚生年金部分はいつまでたっても受け取れないということにもなります。

今後の生活に必要なお金、会社の経営状況などを考えて、経営者のリタイアメントプランを考えてみてください。

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