【2016年 第5回 移行型の任意後見契約なのに預貯金がおろせない?!】相続・遺言・成年後見の実際の現場から新シリーズ
竹原 庸起子 (タケハラ ユキコ)⇒ プロフィール
相続専門のファイナンシャルプランナー・行政書士の竹原庸起子です。
今年のコラムでは相続の実際の現場から新シリーズとして、実際に起こった相続関連のできごとをストーリー形式でお伝えします。
今年度第2回目、第4回目コラムにて、「空き家の所有者が死亡していた場合、認知症であった場合」の法律問題や手続きについてお伝えしました。
今回は第4回目コラムで取り上げた成年後見制度の実務上でしか知りえない運用や裏話をお伝えします。
1 任意後見制度には二つの型式がある
元気なうちに締結する任意後見契約には、契約締結後に委任者の判断能力が衰えてきたときに、事前に決めておいた人に依頼し、その人に任意後見人になってもらえる契約である「将来型の任意後見契約」がスタンダードです。
しかしながらこの契約では元気なうちには任意後見人の出番がありません。
元気な間は依頼したほうがそれまでどおり自分で自分のことをしなければならないのです。
そこで「移行型の任意後見契約」といい、元気なうちでも第三者に法律事務を委任できる「生前事務委任契約」とさきほどの将来型の任意後見契約の二つを合わせた契約があります。
この契約書はひとつの公正証書にしておくことが多いです。
2 移行型の任意後見制度の認知度は低く、金融機関での対応には差がある?!
この移行型の任意後見契約を依頼した高齢者をAさん、その依頼をうけた受任者の専門家をBさんとしてこの後の話を進めます。
Aさんは足が不自由なので、判断能力があるけれども金融機関の預貯金引出の代理人としてBさんに手続きをお願いしたいとのこと。
そこでAさんはBさんと移行型の任意後見契約を締結しBさんに生活費を用意するために銀行預金の引き出しをお願いしました。
公正証書の契約書にはBさんがAさんの代理人として預貯金の解約ができる旨が記載されているので、法律上はその証書を持っていけば解約の手続きができます。
しかし、Bさんはいくつかの金融機関を回りましたが、この公正証書ですぐに解約に応じてくれるところもあれば、公正証書のほかに委任状が必要なところもあれば、公正証書であっても代理を認めないところもありました。
3 金融機関には事前に連絡を
このように金融機関での生前事務委任契約の扱いには差があり、「移行型の任意後見契約って何?」「公正証書であっても裁判所の判決ほどではないから、そのとおりにしなくてもいい」と金融機関担当者から言われたこともありました。
その内容を理解していない金融機関担当者もいれば、十分理解していて、すぐに手続きに応じるところもありました。
生前事務委任契約はまだ認知度が低く、金融機関によっての対応の差は大きいです。
生前事務委任契約を実行する場合には、事前に電話などで確認してから窓口へ行けばスムーズに進んだのではないでしょうか。
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